1 基本的な考え方
中央省庁の再編を中心とする今回の行政改革の基本的な目的は、制度疲労に陥りつつある戦後型行政システムから、21世紀にふさわしい新たな行政システムへ転換していくことにある。
欧米先進国へのキャッチアップを課題とした時期に形作られた現行制度は、今日にあっては、その総合性、機動性、効率性、透明性、国際性等の各側面において様々な機能不全を生じている。
その背景には、各種の社会経済的要因が複合的に存在していることは言うまでもないが、改革を進めるに当たっては、
○ 行政の責任領域の肥大化と重点領域への取組みの遅れ、
○ 政策の企画と事業の実施の渾然一体化に起因する企画・実施双方の機能の硬直化、
○ 客観的政策評価機能の欠如
といった問題点の解決が焦点とならなければならない。
(1) 国の果たすべき役割の見直し
@ 21世紀の日本にふさわしい行政組織を構築するには、まず、国家行政の機能とその責任領域を徹底的に見直すことが前提となる。「官から民へ」、「国から地方へ」という原則がその基本とならねばならない。規制緩和や地方分権、官民の役割分担を徹底し、民間や地方にゆだねられるものは可能な限りこれにゆだね、行政のスリム化・重点化を積極的に進める必要がある。
今日、公共性の空間は、もはや中央の官の独占物ではなく、地域社会や市場も含め、広く社会全体がその機能を分担していくとの価値観への転換が求められている。
A 具体的には、国の行政の果たすべき役割を、以下のような観点で見直す必要がある。(詳細は後掲「W 行政機能の減量(アウトソーシング)、効率化等」参照)
ア 官民の役割分担
国の事務・事業は、官民の役割分担の適正化の観点から、行政改革委員会の「行政関与の在り方に関する基準」を基本とし、民間でできるものは民間にゆだねる、市場原理と自己責任原則にのっとり、民間活動の補完に徹する、との基本的な考え方をとるべきである。具体的には、社会情勢変化などにより存続意義の失われた事務・事業からの撤退、自立的精神と自己責任の原則の下での過度な行政の関与の廃止、特定産業の保護・育成行政からの撤退、所得再配分事業の限定などに努めなければならない。
イ 国と地方の役割分担
国と地方の役割分担の観点から、地方分権を推進し、国の事務・事業は、国家の存立に直接かかわる事務、全国的に統一されていることが望ましい基本ルールの制定、真に全国的規模・視点で行われることが必要な施策・事業に純化すべきであり、地域行政は、基本的に地方公共団体の手にゆだねられるべきである。
具体的には、機関委任事務の廃止、国から地方への権限委譲、国の関与や必置規制の廃止・縮小、補助金の整理・縮小、地方財政の自立性の強化などに努めなければならない。
B さらに、行政の在り方全体を、内外環境の変化に対応したものとすることが必要である。
ア 国際社会・経済情勢の環境変化、経済社会のグローバル化の進展の中で、わが国のみが国際的なルールや基準と離れ、独自の官民関係や行政システムを維持することは許されない。わが国の経済社会のシステムを国際的に通用するようなシステムとしていくとともに、自由経済社会や地球社会の一員として、国際社会の平和の維持、国際的なシステムやルール作り、地球規模の問題解決などに主体的な役割を積極的に果たすことが求められている。
イ また、価値観の多様化と国際化の進展の中で、行政の役割は、従来のように単一の目標の下に、官民、国・地方をあげてそれに取り組むというものではなく、時代時代で重要と考えられる行政の課題を遂行する上で、国民に対して、多元的なビジョン、政策の選択肢を提示する役割を果たしていくべきである。
C 新たな中央省庁の在り方は、このような国の果たすべき役割の見直しの上に立って見定められる必要があり、これに当たっては、国の行政として担うべき機能とともに、制度、政策の在り方も大きく見直される必要がある。
以下、本章においては、新たな中央省庁の再編の姿を中心に検討するが、その一環として、併せて、その機能や政策・制度の見直しも進める。
なお、特に機能の見直しに関連しては、行政の減量(アウトソーシング)、効率化に関する方策が重要となるが、これについては後掲Wによるところとする。
(2) 政策の企画立案機能と実施機能の分離
@ 新たな中央省庁には、政策の企画立案機能の高度化と、公正・中立・透明な行政の確保、国民のニーズに即した効率的な行政サービスの提供が求められる。政策立案機能と実施の機能とは、一面において密接な関係をもつものであるが、両者にはそれぞれ異なる機能的な特性があり、両者が渾然一体として行われていることは、かえって本来それらが発揮すべき特性を失わせ、機能不全と結果としての行政の肥大化を招いている。新しい行政組織の編成に当たっては、政策立案機能と実施機能の分離を基本とし、それぞれの機能の高度化を図ることとすべきである。
A 具体的には、政策立案機能と実施機能の組織的分離によって、次のような改革を進める必要がある。
ア 異なる機能特性に応じた組織の編成、管理
それぞれの機能特性に応じ、最適な組織編成を行う。
イ 政策立案部門と実施部門の責任分担の明確化
渾然一体となっている政策立案機能と実施機能を組織的に分離し、それぞれの部門の役割と責任の分担関係を明確化する。
ウ 高い視点と広い視野からの政策立案機能の確立
○ 政策立案部門の実施上の責任の負担を軽減し、政策立案に専念できるようにする。
○ 政策立案部門が実施部門との距離を保ち、実施部門の利害にとらわれない高い視点と広い視野からの企画立案ができるようにする。
エ 公正、中立、透明な行政執行と効率的で国民のニーズへの即応を重視した行政サービスの提供を確保できる実施機能の確立
○ 実施に関する明確な権限付与により、責任の明確化を図る。
○ ルール、政策実施基準等の明確化を図る。
○ 実施事務の性格に応じた行政サービスの質の向上を目指す。
B 以上の考え方の下に、新しい中央省庁にあっては、政策の企画立案機能は主として本省に、実施機能については可能な限り外局、独立行政法人等の組織に分離することとする。
(3) 政策立案部門と実施部門の連携と政策評価
@ 政策の企画立案部門と実施部門は、もとより緊密な連携関係の下におかれなければならない。政策立案過程への実施段階の情報の提供や問題点の反映が不可欠であり、一方、実施部門においては、政策の企画立案過程における意図と目的が十分に伝えられ、的確な行政の実施が図られなければならない。
このため、両者の責任関係の明確化の上に立って、両部門間の十分な意思疎通を確保するとともに、必要な人事交流が図られるべきである。
A 同時に、政策は、その効果が常に点検され、不断の見直しや改善が加えられていくことが重要である。実施過程における効果の検証も欠かせない。政策の評価体制を確立し、合理的で的確な評価を進め、その結果を迅速かつ適切に反映させていく仕組みと体制が重要である。もとより、これに当たって、情報の公開が不可欠であることは言うまでもない。
2 省の編成
(1) 基本的な方針
以上の基本的な考え方に基づき、本省を政策の企画立案機能に重点化し、新たな省庁編成に当たっては、以下の原則によることとする。
@ 目的別省編成
取り組むべき重要政策課題、行政目的・任務を軸に再編し、事務の共通性・類似性にも配慮することとする。
A 大括り編成
高い視点と広い視野からの政策立案機能を発揮させ、縦割り行政の弊害を排除するため、行政目的に照らし、可能な限り総合性、包括性をもったまとまりとして、大括りの編成とする。
B 利益相反性への考慮
基本的な政策目的や価値体系の対立は、極力同一省庁内にもち込まず外部化し、政策立案が恣意的となったり、大きな価値対立の調整が内部化し不透明に行われることを防止する。
C 省間バランス
各省間の健全な政策論議を確保するため、事務のまとまりに着目する場合にあっても、省の大きさや省間の力のバランス(予算、権限等)の確保について留意する。
D 省間の相互調整(省の目的・任務に即した相互調整)
目的別省編成とすることに伴い、新たな省は、その省が追求する行政目的・価値について、他の省との間で積極的な調整を進めるべきこととなる。
省間の調整については、後掲4において詳述するが、この新たな省間調整システムにより、各行政目的において中心となる省が、関係省と第一次的な調整を主体的に行うことを基本とする。
もとより、内閣総理大臣及び内閣官房の強力なリーダーシップはこの前提であり、内閣として、必要に応じ、省間調整に先立ち具体的な指示を与え、省間で決着のつかない事項について裁定を行うことは言うまでもない。
(2) 行政組織の編成の柔軟化
内外情勢の変化や行政需要・政策課題の変化に応じ、行政組織編成を柔軟に改組できるような工夫が必要と考えられる。このため、組織編成を固定的なものと考えることなく、状況の変化に応じ、臨機応変に対応できるような仕組みを今後検討する必要がある。
また、省の内部組織にあっても、その編成は可能な限り弾力的なものとし、多様な展開を可能とすべきである。
(3) 具体的編成
本会議においては、21世紀において国家行政が担うべき機能は何かを明らかにした上で、それに基づき省庁再編案の検討を行ってきた。
この国家機能論については、橋本総理による国家機能の四分類、
すなわち、
T 国家の存続
U 国富の確保・拡大
V 国民生活の保障・向上
W 教育や国民文化の継承・醸成
を出発点とし、
21世紀の主要行政課題として、
T 国際社会の平和と繁栄への貢献、国家主権の確保
U わが国の平和・安全秩序の維持・確保
V 健全な財政の確保、通貨の安定、金融秩序維持
W 産業競争基盤の維持・向上による強靱な経済の形成
X 国土の整備・開発・利用・保全
Y 食料・エネルギーの安定供給の確保
Z 環境の保全と自然保護
[ 少子高齢社会における国民生活・福祉の向上
\ 創造的な人材の育成と先端科学技術、学術や文化の振興
等を認識した上で、
国家行政機能・目的の再分類を行い、これをもとに、中央省庁を行政機能・目的別に編成することとし、諸機能の間の共通性、相反性をも考慮して、中間報告に規定した省庁再編案の合意に至った。
中間報告後、本会議では、さらに同再編案に基づき、新たな省庁の名称、主たる任務・行政目的、行政機能、他省事務との関係整理、実施事務の分離・効率化等の精査を行うとともに、再度組織編成上必要な議論を行い、与党における議論をも踏まえつつ、以下の編成案につき合意を見た。
なお、今回の報告においては、各省の基本的な任務・行政機能を規定することとし、局等の詳細な内部組織まで具体化することは避けることとした。これは、時間的制約があったことにもよるが、同時に、今回の省庁再編が国家行政組織の基本的な変更を伴うことにかんがみ、ともすれば、現行省庁の事務・権限の分担を前提とした論議に陥り、議論の枠組みが現状維持的・技術的なものとなることを懸念したからである。各省の内部組織の在り方については、今回の報告の全体を踏まえ、今後、政府において、精査を行うべきである。
< 省庁編成案 > (注)省庁等の並べ方は、とりあえずのものである。
@ 総務省
A 法務省
B 外務省
C 財務省
D 経済産業省
E 国土交通省
F 農林水産省
G 環境省
H 労働福祉省
I 教育科学技術省
3 内部部局及び外局
(1) 内部部局
@ 本省は主として政策の企画立案機能を担うことから、機動的、戦略的な意思決定が可能な機能的な組織とするとともに、評価機能の確立を図る。
A 本省の内部部局として、官房及び局を置くこととするが、局の編成に当たっては、新しい省の行政目的・機能に即し、総合的かつ機能的な行政の遂行が可能となるように編成することが必要である。
また、新しい省の本省(内部部局)においては、基本的に、政策立案業務を担当することから、できる限り、課は廃止し、状況に応じて担当業務を変更できるスタッフ制(いわゆる「分掌官」)を導入する。
B 省ごとの内部部局の編成に当たっては、現行の省の組織編成を単純に合体させることなく、また、省ごとの局数についても、大規模な省にあっても基本としては、10を超えることがないことを目標とすべきである。
(2) 外局
@ 類型と制度設計
A 省別の外局
以上の考え方を踏まえ、今回の省庁編成において置くこととされた準省(仮称)、実施庁(仮称)及び政策庁(仮称)を、府・省別に整理すると、次のとおりである。
なお、実施庁及び政策庁にあっては、今後とも、業務のアウトソーシング、政策の企画立案機能と実施機能の分離の観点から、その在り方について、必要に応じ見直していく必要がある。
<準 省> | 内閣府に置かれる防衛庁、国家公安委員会 |
<実施庁> | 【内 閣 府】 | 金融監督庁(名称、任務等については、今後検討) 防衛施設庁(防衛庁の外局) |
郵政事業庁(5年後に新たな郵政公社に移行) | ||
公安調査庁 | ||
国税庁 | ||
特許庁 | ||
海上保安庁 海難審判庁 気象庁 | ||
社会保険庁 |
<政策庁> | 【総 務 省】 | 消防庁 |
【経済産業省】 | 中小企業庁 資源エネルギー庁 | |
【農林水産省】 | 食糧庁 林野庁 水産庁 | |
文化庁 |
(3) 行政委員会
@ その性格と機能
行政委員会については、従来、事務の性質上、その処理に当たって、公正中立性や専門技術性等を必要とされるため、内閣から独立した地位にある機関に行わせる必要がある場合に設置されてきたが、今後とも、このような趣旨から、行政委員会を活用することとする。
A 省別の行政委員会
以上の考え方を踏まえ、今回の省庁編成において置くこととされた行政委員会を省別に整理すると、次のとおりである。
【総 務 省】 | 公正取引委員会、公害等調整委員会 |
【法 務 省】 | 司法試験管理委員会、公安審査委員会 |
【国土交通省】 | 船員労働委員会 |
【労働福祉省】 | 中央労働委員会 |
4 新たな省間調整システム
現行法体系下における、各省庁の特定行政分野についての排他的所掌を前提とした分担管理原則は、ややもすれば所掌範囲内の政策の独占と縦割りの硬直性、省庁をまたがる政策課題への対応力の欠如を招いている。また、大括り省編成により、各省がさらに巨大化し、相互の政策連携が現状に比しても不十分になることへの懸念も存在する。
そこで、従来、原則として内閣官房及び総理府外局にのみ存し、実態的には有効に機能していなかった各省間の調整システムについて、次に述べるように、内閣官房による総合調整、内閣府(担当大臣)による総合調整、さらに省間の相互調整という、三類型の調整の組合せによって抜本的に機能強化を図る必要がある。
特に、行政目的別大括り再編成後の新たな省には、担当する行政目的の遂行に照らし必要な分野について各省との調整権を付与するほか、所管外の事務・事業に関しても、当該省の行政目的実現の観点から、互いに意見を述べ、提案を行い得る仕組みを創設することとする。
以上により、異なる行政目的間の開かれた政策論議を促し、政府全体としての政策形成を活性化し、その過程の透明化を実現するとともに、併せて、大括り省における政策調整の内部化や縦割りの弊害の懸念も解消することが可能となる。
(1) 内閣官房による総合調整
@ 国政上の重要事項について、分野、レベルを問わず、内閣としての最高かつ最終の調整プロセスとして位置付けられる。
A 内閣官房は、内閣総理大臣の活動を直接に補佐・支援する組織として、内閣総理大臣の国政に関する基本方針の企画立案及びその推進の任を担う。
B 次項以下の内閣府(担当大臣)による総合調整及び省間の水平調整に対するイニシアティブの発揮、及び調整の最終処理を行う。
C 機動性、柔軟性をもった組織運営を基本とし、部外資源を積極的に活用する。
(2) 内閣府(担当大臣)による総合調整(*)
@ 担当する主たる省を特定することが困難な課題であって、全政府的に調整が必要なものについて、恒常的又は臨時的に政府全体の見地から各省の上に立って総合調整(受動的調整のみならず、企画、積極的発議、調整を含む)を行う。
A 必要な調整課題について担当大臣を置き、当該担当大臣には、内閣総理大臣を補佐し、強力な調整権(提案、資料・報告の徴収、拒否、指示)を付与できるよう措置する。
B 調整の場として、関係閣僚会議その他の調整会議を設置し、計画の策定、推進等を行う。
C 内閣又は内閣総理大臣は、必要に応じ、総合調整内容について報告等を求め、又は指示、承認する。
D 各課題に対応し、必要に応じ内外の人材や情報の積極的な活用を行い、調整の実効を高める。
(*)このレベルの総合調整については、経済財政諮問会議等の活動が含まれる。
(3) 省間調整システム
@ 各省にそれぞれ、その主たる行政目的達成のための調整権を付与する。
A 各省は、内閣、内閣総理大臣若しくは内閣官房の指示又は自らの発意により機動的な調整を行う。この場合にあっては、可能な限り円滑な調整を実現する行政運営慣行の確立が必要である。
B 調整プロセスについては、以下のA〜Dのとおりとする。
C 上記両タイプともに活用する調整の場(インターエージェンシー)
○ 従来から存在する関係閣僚会議、本部、協議会等の省間調整の場については、メンバーを実質的な関与の大きい省に限定することや、サンセット方式の導入により会議の形骸化を防止する。
○ さらに、より迅速かつ実質的な省間協議・調整を制度的に担保するため、以下のような各省調整委員会(インターエージェンシー)の仕組みを活用する。
・内閣官房又は調整省の主導によりメンバーを選定し、公式の調整の場として設定。
・従来の省庁連絡会議に比し、より小規模かつ実質的なものとする。
・基本的にアドホックなものとし、調整が終了した段階で委員会は解散するものとする。
D 情報公開による調整の透明化
以上、A〜Cを通じて、その過程においては、非建設的な権限争いなど、縦割りの弊害を排除するとともに、政策協議の透明性の向上を図るため、情報公開の趣旨に沿い、可能な限り、省間の協議過程を明らかにする。
5 評価機能の充実強化
(1) 評価機能の充実の必要性
@ 従来、わが国の行政においては、法律の制定や予算の獲得等に重点が置かれ、その効果やその後の社会経済情勢の変化に基づき政策を積極的に見直すといった評価機能は軽視されがちであった。
A しかしながら、政策は実施段階で常にその効果が点検され、不断の見直しや改善が加えられていくことが重要であり、そのためには、政策の効果について、事前、事後に、厳正かつ客観的な評価を行い、それを政策立案部門の企画立案作業に反映させる仕組みを充実強化することが必要である。
B また、評価機能の充実は、政策立案部門と実施部門の意思疎通と意見交換を促進するとともに、その過程において政策立案部門、実施部門の双方の政策についての評価や各種情報が開示され、行政の公正・透明化を促す効果があることも忘れてはならない。
(2) 各省における評価機能の強化
@ 政策の企画立案には、政策の効果分析や評価が不可欠なものであり、政策の評価は各省の重要な機能となるべきである。このため、各省の本省組織に、明確な位置付けをもった評価部門を確立すべきである。
A 評価の客観性を確保するため、評価指標の体系化や評価の数値化・計量化など合理的で的確な評価手法を開発していく必要がある。
B 同時に、全政府的な観点から、政策評価の総合性とより厳格な客観性を確保するため、各省における評価機能とは別に、各省を超えた全政府レベルの評価機能の充実強化を図る必要がある。
このためには、現行の行政監察機能の充実強化に加え、民間有識者などを加えた第三者的評価を可能とする仕組みが是非とも必要である。
C なお、実施部門については、目標の設定と達成度評価といった仕組みを導入するが、これは評価機能の充実方策の一環と位置付けることができる。また、実施段階での実情や問題点の把握は、政策評価の一部と考えられ、これらの情報が政策立案部門に適切に提供される必要がある。
(3) 評価結果の公開
@ 政策評価の眼目は、政策に必要な修正を加えるとともに、評価過程を通じて、可能な限り透明に、政策の目的、内容、実現状況、修正の必要性の有無などの議論を明らかにし、幅広く政策選択の在り方についての国民的議論を喚起していくことにある。その意味で、評価機能の的確な発揮に当たっては、評価の迅速化や情報の公開を積極的に進める必要がある。
A 政策評価は、評価が政策に反映されてこそ意味があるものである。政策評価の実効性を確保するためにも、評価結果の政策への反映について、政策立案部門による説明責任を明確化することが必要である。
(4) 会計検査院による評価
評価は、政府部内のそれとともに、政府の部外からもなされることが重要である。
国会におけるその機能が期待されることは当然であるが、会計検査院の果たす役割への期待も大きい。この見地から、国の収入・支出の検査、会計経理の適正化という観点を主体として遂行されてきた同院の機能は、今後、国の施策や事務・事業の効果、効率性、合理性といった観点からの評価も重視していく必要がある。このために、同院の機能の充実強化を図るべきである。
6 審議会等
(1) 改革の基本方針
審議会(国家行政組織法第8条に基づいて設置された審議会等をいう。)や懇談会等行政運営上の会合は、行政の民主化や専門知識の導入において従来一定の役割を果たしてきたが、その数が膨大になり、いわゆる隠れみのになっているのではないかとの批判を招いたり、縦割り行政を助長するなど、その弊害も目立つようになってきている。こうした問題点を解決し、行政責任を明確にするため、従来の審議会等を思い切って整理し、設置は必要最小限にとどめるとともに、その運営の改善を図る。
(2) 具体的措置
以下を基本とし、審議会等の整理合理化を進めることとする。これに際し、別紙1の指針によるものとする。
@ 審議会の整理
ア 最近の活動実績に乏しい審議会及び設置の必要性が著しく低下している審議会は基本的に廃止する。
イ 現在各省庁に多数置かれている政策審議、基準作成を行う審議会は原則として廃止するものとする。その設置を必要とする場合にあっては必要最小限のものとし、設置に当たっては、省庁の枠にとらわれることなく総合的なものとする。また、審議事項を具体的に限定するとともに、可能な限り時限を付すものとする。
ウ 不服審査、資格・検定、調停、行政処分等への関与等を行う審議会は、必要性を厳密に検討し、最小限のものに限定する。
A 審議会の運営の改善
ア 審議会の構成と委員の資格要件は、審議会の本来の趣旨・目的に照らし、厳正に定められなければならない。
イ 会議又は議事録は公開することを原則とし、運営の透明性を確保する。
B 懇談会等行政運営上の会合の適正化
懇談会等行政運営上の会合については、安易な設置を厳に抑制するとともに、審議会に準じてその運営の適正化を図る。
(3) パブリック・コメント制度の導入
各省が基本的な政策の立案等を行うに当たって、政策等の趣旨、原案等を公表し、専門家、利害関係人その他広く国民から意見を求め、これを考慮しながら最終的な意思決定を行う、いわゆるパブリック・コメント制度の導入を図るべきである(制度のイメージ等については、別紙2参照)。
別紙1
1 審議会の整理の指針
審議会については、以下の基準により整理することとする。
2 審議会の運営等の改善の指針
審議会については、以下の基準により運営等を改善するものとする。
3 懇談会等行政運営上の会合の適正化の指針
懇談会等行政運営上の会合(*)については、あくまでも行政運営上の意見交換、懇談等の場として性格付けられるものであることに留意した上、審議会の公開に係る措置及び以下の基準により、その設置及び運営の適正化を図ることとする。
* 行政運営上の参考に資するため、大臣等の決裁を経て、大臣等が行政機関職員以外の有識者等の参集を求める会合であって、同一名称の下に、同一者に、複数回、継続して参集を求めることを予定しているもの(@顧問、参与等特定の官職にある者(過去に当該官職にあった者を含む)のみの参集を予定しているもの、A懇談のみにとどまり、懇談等の結果を整理した報告書等の作成を予定しないものを除く)。
1 問題意識及び目的
各省庁によって政策形成が行われる場合、民意の反映、専門的知識の導入、利害調整等が不可欠な場合が多く、また、その政策形成過程の公正と透明性を確保することが必要である。
上記目的を達成するための方策として、各省庁が政策の立案等を行う際、原案を公表して、専門家、利害関係人その他広く国民から意見を求め、これらを考慮しながら意思決定を行う仕組みを作ることが必要である。
2 パブリック・コメント制度の概要
(1) 対象
パブリック・コメントを求めるものの例としては、次のようなものが考えられる。
@ 基本的な政策の樹立、変更
A 国民の権利義務、国民生活に影響を与える新たな制度の導入、変更
B 国民の権利義務、国民生活に影響を与える行政運営の基本的なルールの設定、変更
C 多数の者の権利義務に影響を及ぼす事業等の計画の策定及び変更
(2) 方法
@ 既に個別法によりパブリック・コメントを求める制度があるものについては、これを積極的に活用すべきである。
A 個別法による制度がない場合にあっては、行政運営上又は新たな制度の整備により、以下のようなことを可能とすべきである。
ア 政策等の趣旨、原案等の公表
イ 政策等の趣旨、原案等に対する国民からの意見の聴取
ウ 当該意見及びこれに対する対応結果の公表
エ 以上のほか、必要に応じて、専門家、利害関係人等からの意見聴取、公聴会、討論会の開催等を行う。
7 特別の機関
国家行政組織法第8条の3に規定する「特別の機関」とは、審議会等、施設等機関以外の機関で、特に必要がある場合に省庁に置かれる機関をいう。現在これに属する33種類の機関には、目的、機能、組織態様等の面で多種多様なものが混在しており、その見直しに当たっては、それぞれの性格に応じて個別に考える必要がある。(「特別の機関」の分類については、以下の「参考」を参照。)
そこで、「特別の機関」の在り方については、中央省庁の再編と併せ、政府において、現存する「特別の機関」についてその目的、機能、組織態様等を個別に検討し、それぞれの性格に応じた見直しを行うべきである。
上記見直しに当たっては、内閣府、現業等他の項で見直しの方針が述べられているものについてはそれによることとするほか、本部、各種会議等については、経年による当該政策課題の重要性の変化等を踏まえて、その必要性を見直す。
(参考)
現在「特別の機関」とされている33種類の機関の性格については、例えば以下のような分類が可能であろう。
@ 各省横断的な特別の課題に対処するため、関係者により構成される本部機関(国際平和協力本部、阪神・淡路復興対策本部、地震調査研究推進本部、青少年対策本部、北方対策本部)
A 各省横断的な特別の課題に対処するため、関係閣僚や学識経験者等で構成される合議制の機関(日本学術会議、中央防災会議、中央駐留軍関係離職者対策協議会、公害対策会議、消費者保護会議、中央交通安全対策会議、高齢社会対策会議)
B その他、調査審議、利害調整その他の活動を行う合議制の機関(日本ユネスコ国内委員会、日本学士院、日本芸術院、中央選挙管理会、連合海区漁業調整委員会)
C 現業又はまとまりのある実施事務を行う機関(印刷局、造幣局、調達実施本部、国土地理院)
D 試験研究機関を統轄する機関又は合議制の機関(技術研究本部、工業技術院、農林水産技術会議)
E 行政委員会の下で、実質はその内部部局である機関(警察庁)
F 司法機能と関係する機能若しくは準司法的機能又はこれと関係する機能を有するため、高度の独立性を有している機関(検察庁、国税不服審判所、海難審判理事所)
G 総合的な地方支分部局又はこれに類似する機関(小笠原総合事務所、在外公館)
H 自衛権の行使を目的とする特殊な実施機関及びその助言、調整機関(幕僚監部、統合幕僚会議、自衛隊の部隊及び機関)
8 今後の検討課題(行政審判庁構想)
(1)行政審判庁構想の趣旨・目的
私人相互間又は行政庁と私人との間に生ずる紛争については、裁判所ではなく行政機関が裁断を行うこととされている、いわゆる「狭義の行政争訟」が多数存在している。これらは、事案の性格にかんがみ、当該事案に関し専門技術的な知識・経験を有する者が紛争解決に参与することにより、裁判所の負担を減らし、簡易・迅速・低廉・適正な解決がなされることを期待して設けられているものであるが、こうした機能は、徹底的な規制の撤廃と緩和の断行という今次の行政改革に伴い、司法機能の充実強化とともに、ますますその重要性が高まるものと考えられる。
そこで、これらの諸制度が果たす裁判制度の補完機能を積極的に評価し、これをさらに改善することを目的とし、併せて行政組織を簡素化するため、現行法上多岐にわたって分散しているこれらの行政争訟の裁断機関(注)を統合することが検討に値する。これが行政審判庁構想であり、司法改革の端緒としての意義をも有するものである。
(注)現行法上の行政争訟制度としては、行政不服審査法により、一般的に処分庁の直近上級庁への審査請求手続が定められているほか、特別法により、いわゆる準司法的な審判手続及びそのための特別の審査機関が定められ、制度的に一部裁判判決に代替する機能を与えられているものがある。そのすべての審査機関の一元化も考えられるが、当面、後者のうち現に裁判機能の一端を担っている行政審判についての統合を検討することも考えられる。この場合、検討の対象となるのは、公正取引委員会、公害等調整委員会、特許庁、海難審判庁及び電波監理審議会による各審判ないし審理である。
(2) 行政審判庁構想について検討すべき問題点
統合が検討される行政審判の中には、その組織、審判対象、手続等において多様なものがあり、以下に見るように留意・検討すべき点が多々存在している。
@ 組織については、上記の5機関のみを取ってみても、行政委員会(公正取引委員会、公害等調整委員会)、外局としての庁(特許庁、海難審判庁)及び8条機関(電波監理審議会)が混在し、所掌事務についても、もっぱら審判のみを行うもの(海難審判庁等)から一定の企画立案機能も担わされているもの(公正取引委員会、特許庁等)まで様々である。形態の違いそのものについては、それぞれが理論必然的に現在の形態でなければならないというものではないが、これらの組織が現に所管している事務の範囲の違いは問題であって、審判業務のみを集めて新たな行政審判庁に統合した場合に、それぞれの機関が現在担っている審判以外の事務をどうするかを別に考えなければならないことになる。その際、例えば特許庁の行っている特許出願審査と特許審判のように、後者を前者から組織的に切り離すことが果たして合理的であるのかどうか、なお、精査を必要とする問題が存在する。また、公正取引委員会のように極めて包括的な権能を有する行政委員会という組織形態の意義につき、なお本格的な検討を進めることが前提となろう。
A 審判業務そのものについても、不服の裁定等いわゆる「覆審的争訟」を扱うもの(特許審判、電波監理審議会の審理、公害等調整委員会の裁定)、いわゆる「始審的争訟」により第一次的な行政処分を行うもの(公正取引委員会の審決、海難審判庁の裁決等)のほか、私人相互間の争いを裁断する機関(公害等調整委員会)もある。こうした状況の下で「行政審判庁」を構想するとき、果たして、現行の手続上の類似性に着目した統合が合理的であるのか、例えば「覆審型」と「始審型」に分け、後者はむしろ一般行政手続法の世界の問題として考えて対象から外す方が適当であるのか等なお慎重に検討しなければならない問題が存在する。
B その他、組織統合の真のメリットを考えるならば、これら各種の審判相互に手続上の一元化を図り、また、審判官相互間の流動性が可能となるのでなければならず、これらのためになお多くの準備作業が必要である。また、行政審判が裁判制度の補完である以上、行政審判庁構想の実現は司法の側における制度改革と組織的機能的に連動するものでなければならないが、司法改革が必ずしもその緒についていない現状で、問題を行政改革の見地から先行させることが果たして可能かつ適当であるかどうかも、考慮を要する。
(3) 今後の検討要請
上記のように、なお検討すべき問題点が少なからず存在するため、行政審判庁構想は当面の省庁再編の対象から除外することとする。
しかしながら、本構想は、司法改革の端緒として重要な意義を有するほか、「事前調整型行政から事後監視型行政へ」という基本的な行政スタンスの転換との合致や、行政の簡素化への貢献等、多くの優れた特質を有していることは、否定しがたく、本会議としては、今後、政府において、近い将来の構想の具体化を目指し、早期に真剣な検討に着手することを要望する。
目 次 | 前 へ | 次 へ |