1.日時:平成16年5月14日(金)18:00〜20:00
2.場所:虎ノ門第10森ビル4階
3.出席者
(座 長) 能見善久(東京大学教授) (座長代理) 中田裕康(一橋大学教授)
岩原紳作(東京大学教授)
植垣勝裕(法務省民事局参事官)
金子宏 (東京大学名誉教授)
山田誠一(神戸大学教授)(50音順) (事務局) 堀江事務局長、西室長、長屋参事官、田中企画官、岡本企画官、野口調査官 4.議事概要
● 検討課題(財団関係)について事務局から、「非営利法人WG資料13」について説明があり、以下のような意見が出された
- 財団の事業について、どのような事業でもできるとするか、何らかの制限を設けるとするかを検討する必要があるだろう。現行民法上は、「公益」という制限があったが、「公益」という制限を外したときに、事業に格別の制限がないこととするべきかという議論が必要。
ドイツでは、財団法人の行い得る事業について制約はなく、経済活動の中で活用されている。これに対して、ドイツの社団は非経済的なものに限定されている。
- 財団の事業を広く認める積極的な理由はないが、準則主義で設立できるとする以上は、自由な形式で財団は認めるべきである。公益と収益を対立概念として分けることはできず、中間法人的な財団を認める意義はあろう。財団の事業の範囲は広く認めてよいだろう。
- 社団法人については、「公益」に代わる「共益」という概念があり、その財政的な基礎を保つために、収益事業を行うというということはありえる。これに対し、財団法人には、「共益」という概念がないので、収益事業という側面が前面に出てしまう。
- 財団法人が収益事業をすることを制限するとした場合の根拠を検討したとき、「非営利」という概念がないので、「非営利」という観点から制限することはできない。
- 実際に財団法人の収益事業を論理に従って認めた場合、第一に、実際には営利的(利益分配)活動を行う法人が現れるだろうが、それは営利法人にふさわしい利害調整システムの潜脱になる。第二に、このような法人形態を認めることによって、マネーロンダリング、強制執行逃れ、徴税逃れなどの法人形態の濫用が生じよう。社団法人であれば、マネーロンダリング等の行為をその構成員に結び付けられるだろうが、財産の集合としていくらでも法人をつくれるとした場合、違法行為のチェックが難しくなる。
財団法人については、公益性という観点で事業活動を制限したほうが、法技術的には賢明である。
- しかし、公益という範囲を超えて財団を設立したいという要望はある。大きい同窓会のようなものでは、社団法人よりも財団法人という形態にしたいという声もある。
- 法人の内部に財産が蓄積されたとき、公益法人はそれを良いことに使うとされていたが、公益性を財団法人の要件から外した場合に、利益の流出先が「良いこと」であるという保証はなくなる。
- 財団法人の事業を広く認められないとする場合、その理由は、「会社法制の潜脱」ということのほかに、誰に利益がプールされるのかがわからないということがある。また、執行等の実効性を小さくするような制度をつくること自体がよくないことなのではないか。
- 社団は、「非営利」という観点から規制することができるが、財団法人ではそれができない。
- 社員に当たる者、つまり拠出者に対して、配当のようなことをすることを容認すべきでないという考え方はありえよう。
- 財団法人の活動に決定権を持つ者に恒常的に利益を流すことは認めないとすべき。
- 財団法人の問題は、利益分配防止の潜脱ということになる。中間的な財団法人を認めるべきかどうかは、法技術的な意味のみならず、政策の問題でもあろう。
- 財団法人の意義・理念に関し、資料中第1の1(1)において、財産処分の自由を掲げているが、財産処分の自由が拡大するから新しい制度をつくるということにはならない。また、(3)に関し、現行法人の移行と新しい制度の創設は区別すべき。とすると、(1)と(3)は決定的な理由ではなく、(2)が妥当なのだろう。ここで、(2)は政策的な理由である。
- 財産処分の自由は無制限ではない。公益性を要件としない財団法人を認めるとしたときに、本来の趣旨を逸脱しないように規律できるかということを考えるべき。現行制度では、公益目的であれば認めるというものであるが、公益以外にも認めた場合に、本来の趣旨の逸脱の歯止めとなる何らかの仕組みをつくれるかということである。
- 逆に言えば、公序良俗に反しなければ財産処分はできるのであり、公序良俗に反しない限り、公益に限られないということになるのではないか。
- 公益性を要件としない財団法人制度を検討する価値が論理的にあったとしても、立法のためのニーズが本当にそれだけあるのかどうか懸念がある。
- 公益性をどこまで認めるのかによる。同窓会のようなものを「広い意味での公益」ということで拾えるのであれば歯止めになろう。
- 公益の範囲を広げすぎると公益性の効果が小さくなってしまう。公益を「狭い意味での公益」と「広い意味での公益」の二段階にすれば、それくらいの財団は認められるのではないか。
(←「広い意味での公益」と財団法人制度を結びつけた場合、準則主義の下で「公益性」を担保することは難しいのではないか。)
- 「公益の名の下に何でもできるようにはしない」ということは親会議でも検討しており、これがきちんとできるかどうかによるだろう。
- チャリティ委員会に届け出るという制度にしつつ、今のように強い規制はしないという制度はありえよう。
- 法人の設立要件を満たさなくなった場合に解散を含めてエンフォースメントを発動できるような形で準則主義と調整を図るべき。
- 設立には瑕疵がなくても、チャリティ委員会が認定しないと解散になるということか。そうすると形式的には準則主義だが、実際にはもっと厳しいということになる。
- 広い意味での公益性を要件とした場合に準則主義とするか認証主義的なものとするかは親会議に任せればよいのではないか。
- 前回、社団法人でも家族世襲財団と同じことが可能であり、社団と財団ではどこが違うのかとの指摘があったが、次のような違いがあるのではないか。
@財団法人は、遺言で設立できる。
A単独で設立できる(ただし、一人社団を認めれば、社団も一人で設立できる。)。
B財団法人の場合、設立行為を取り消すと財団が消えてしまうが、社団法人の場合、社員は脱退するが、法人は残るという解決があり得る。
C社団は、社員の死亡により法人が移り変わるが、財団はその可能性がない。
また、財団法人の場合は、相続法との関係をつめて検討すべき。同時に、財団法人の設立が相続争いにつながった場合は、相続人がモニタリング機能を果たすことがあるのではないか。
- 家族のための社団ができても、社団であれば法人の流動性から問題に対応できる。
- 問題は公益性を広く認めることによって解消されよう。
- 財団法人は社団法人と異なり、公益的なものに限られるとした場合でも、入口は広いので、やはり2階建てということになろう。
- 1階と2階が同じになることもありうる。
- 公益性の概念をどうするか。これまで同窓会は公益法人としてはありえないということだったが、財団法人としてはありえるだろう。ただ、もっぱら家族世襲のためのものは排除することになろう。
- 社団法人の「公益」があって、それにプラスアルファしたものが財団法人の「公益」ということになるのだろう。広い意味での公益性のあるのが財団法人の1階ということになる。
- 税の公益性と私法上の公益性が異なることはありうる。
- 財団に最初から広い公益性を求めるというのは、非営利の社団に準じた非営利の財団は論理的にあり得ないということか。それとも弊害があるということか。
- 非営利の財団にそれほど強いニーズがあるわけではないようだし、弊害も考えられるかも知れないのであれば、財団の目的ないし事業の範囲を少し狭めたらどうかということが考えられる。何でもできる財団でいいか、事業を少ししぼることにするかについて、今後もう少し問題点を詰めた方がよいと思う。
- (残余財産の帰属先について)民法72条は、残余財産の帰属先について、極めて緩い規律である。
- 現在の行政解釈では、政策的な理由から出資額を含めて残余財産は取り戻せないとされているが、一定期間公益のために使われたのだから取り戻してもよいと規律することもできるのではないか。
- 残余財産の帰属については、きちんとどこかで議論したほうがよい。これは、出資型非営利法人があってもよいという議論に関係する。また、拠出したものがそのまま戻ってくるという団体について公益性があると認められるかという議論もある。
- (ガバナンスについて)広い意味での公益性という制限を設けた場合に、ガバナンスについてのこれまでの議論を修正すべきかという問題があるが、それほど修正する必要はないだろうと考える。基本財産制度等について、より強い規制をかけることにはならないだろう。
- 広い意味での公益性ということを考えたとしても、2階建てにした場合にも要求される組織のあり方は同じになるのではないか。
- 入口を厳しくするということはありえよう。また、逆に入口を厳しくすれば、他の規律は緩やかにするということもありえよう。例えば、原案では、評議員会や理事会について厳格に定めているが、小規模の法人には負担が大きい。規律を緩やかにする法人があってもいいのではないか。
- (基本財産について)基本財産制度についての規律のイメージはどういうものか。
(←法人格の基礎となる財産について、規模、種類、手続、処分制限等に関する規律をどう定めるかによる。)
- 基本財産の金額を登記する場合、会社財産の公示システムと比較したときに意味があるのか。公益性のチェックということならわかるが、登記コストもかかるのに基本財産を登記させるのはなぜか。
(← 登記事項とするかどうかについては、基本財産に関する規律を検討した上で、改めて検討したい。)
- (寄附行為の変更について)財産処分の自由という観点からは、寄附行為者の意思が強く認められ、資料中第2の4(1)B案ということになるのではないか。
- 法人の規模により外部監査を義務付けるということはあるのか。
(←社団での外部監査に関する議論と同様となるのではないか。)
- 残余財産の帰属の問題は、寄附行為者に残余財産を分配するときに問題となろう。営利ではないとしたら、拠出した額に限られよう。
- 利益蓄積型の法人をつくって、すぐに解散して分配するというのでは困る。
- 税のルールで営利法人制度の潜脱にならないようにはできないか。
- それは税法の観点から定めればよい。私法として、営利目的の法人なのではないかといわれる事態が生じてよいか。
- 財団法人を仮に公益的なものに狭めるとしても、残余財産の帰属については中間法人と同じにしてもおかしくはないのではないか。
- 社団法人は総会の議決で決めるが、財団法人は社員総会の決議がないので問題が表面化する。例えば、類似目的の法人に限定するということになろうか。
以上