1.日時:平成16年6月25日(金)18:00〜20:00
2.場所:虎ノ門第10森ビル4階
3.出席者
(座 長) 能見善久(東京大学教授) (座長代理) 中田裕康(一橋大学教授)
岩原紳作(東京大学教授)
植垣勝裕(法務省民事局参事官)
山田誠一(神戸大学教授)
山野目章夫(早稲田大学教授)(50音順) (事務局) 堀江事務局長、西室長、長屋参事官、田中企画官、岡本企画官、野口調査官 4.議事概要
● 事務局から、「非営利法人WG資料16」に基づき「議論の中間整理」に対し、残余財産の帰属に関して寄せられた意見について説明があり、以下のような意見が出された。
- 定款で社員に残余財産を帰属させてはならないと定めることは自由であるが、法人法制としてそれでは不足とする理由は何か。
(←定款は変更される可能性があり、また、法人の関係者(社員だけでなく、会員、寄附者、支援者なども含む。)に一律に適用される法律上のルールが必要とのことであった。)- 理論的には違う問題であるが、公益性の認定を受けた非営利法人が後に公益性を失った場合、引き続き社員に残余財産を帰属させてはならないという規律を作ることが考えられる。これと似た側面があるようにも思うが。
- 公益性のある場合の規律の余後効によって、2階から1階に降りた非営利法人については残余財産の社員への帰属を禁止することは考えられるが、この件と非営利法人法制の検討とは分けて議論すべきである。資料16の最初の●の残余財産を社員に帰属させることを禁止すべきというのは、ワーキング・グループでこれまで検討してきた非営利の概念とは異なる。また、二つ目の●の残余財産を社員に帰属させることを禁止する類型を別に設けるべきという意見については、公益性のある場合における規律等の議論の動向を踏まえて検討する必要があり、現段階では留保としたい。
- 「非営利性」から社員に残余財産を帰属させてはならないという規律が導かれるわけではない。また、残余財産を社員に帰属させることを禁止する類型を別に設けると、制度が複雑になる。2類型を設けてどちらの類型からでも公益性の認定を受けることができることとするのか。両類型間にアンバランスが生じた場合に問題となる。2類型を設けるべきとする意見には、残余財産の社員への帰属を禁止する類型を設けて、公益性の認定を形式化すべきという考え方がベースにあるように思われるが、公益性の認定は形式化するべきではない。これらの理由から、2類型を設けることについては消極である。
- 残余財産を社員に帰属させることを一切禁止するという制度は、現行法制における非営利の概念とも異なるし、ニーズから検討しても不適当であろう。
- 一つ目の●は中間法人法の制定時に決着がつけられた問題。中間法人法を別に残すのであれば帰属禁止とすることも考えられるが、中間法人法を吸収した非営利法人法制にするのであれば禁止はできない。
- 社員に残余財産を帰属させることを禁止すべきとする意見(一つ目の●)は不適当だが、残余財産を社員に帰属させることを禁止する類型を別に設けるべきとする意見(二つ目の●)については、現時点では積極的に考えることはせず、理論的な理由等のさらなる提示があれば、さらに検討を深めることとしたい。
● 検討課題(財団関係)について事務局から、「非営利法人WG資料17」について説明があり、以下のような意見が出された。 (第1の3 目的及び事業について)
- 公序良俗に反する場合に加え、一定の制限を設けるべきかどうかが最も議論されたところだが、法定の存続期間(3(1)※2)を設けるのは実際上難しいのではないか。
- 法定の存続期間を設けるという考えは、(1)本文の考え方に消極的な意見に対して、法定の存続期間を設けることによって財産の固定化などの指摘に対処することができるのではないかという指摘である。
- 公序良俗に反する場合に加え、一定の制限を設けるという意見(3(2))は、法人格付与と公益性判断の分離に疑問を呈した意見なのではないか。法人格付与と公益性の判断の分離という前提を財団についても受け入れるとすれば、公序良俗に反しない限り、制限を設けないという方向に向かい、社団のみに当てはまると考えれば、公序良俗に反する場合に加え、一定の制限を設けるという方向にも進むのではないか。
- 法人格の付与と公益性判断を分離する点は、財団についても一致を見ている。したがって、財団の目的及び事業に一定の制限を設けるかどうかとは、必ずしも一致するものではないのではないか。
- 財団の目的及び事業について制限を設けるかどうかについては、判断を留保し、他の論点についての検討に進むべきではないのか。
(第2の2 基本財産制度について)
- 設立者の定義を定め、例えば、会社でいう発起人のような法的効果を与えるべきなのか。それは、基本財産として何をどのくらい求めるのかということにも関係するのではないか。
- 会社法の現代化に関する検討では、資本の額が1円でも株式会社の設立を認めるが、純資産額が300万円になるまでは配当を認めないということになりそうである。財団は配当しないので、この論理は必ずしも妥当しない。
- 財団法人であれば、ある程度の財産は必要だろう。
- 基本財産に債権者保護の意味をも持たせるのか。そうであれば、設立時は設立者が、設立後は理事が基本財産を確保する義務があるというルールが必要になる。
- 基本財産を一切取り崩せないとするのは問題。ただ、取り崩す場合には設立の段階であらかじめその旨を定めておき、計画的に取り崩す必要があろう。
- 会社の資本のような財産維持義務があるとすれば最低基本財産額以下までは取り崩せないことになる。また、債権者保護という意味もあるとすると、会社の減資のような債権者保護手続が必要になる。
- 現在の債権者の債権を弁済できなくなるような行為については、詐害行為取消権で対応できるのではないか。取り崩すためには債権者保護手続が必要であるとしたら、要件が厳重すぎるだろう。
- 計算書類の開示の中で、この部分が基本財産であると示すこともあり得よう。
- 基本財産はその額を維持すればよいのか、それとも、特定の財産を維持する必要があるのか。財団は額を維持するものとし、さらにある種のタイプの財団又は全ての財団について具体的な財産を基本財産として定義して、その処分は追加的な制約を課すことが考えられる。
- 従来の公益財団法人においては、特定の財産を拠出して設立し、その財産は処分できないとされたが、新たな財団制度では具体的な特定の資産ではなく、その評価額を維持すればよいことになろう。
- 財団の設立者意思による拘束を強く認めれば、財の拘束が厳しくなる。財団とは、財の集合体に法人格を与える技術であるととらえるならば、財の拘束は柔軟になる。
- 財団は、沿革的に特定の財産に拘束をかけるものであったが、そういう拘束を受けない類型に拡大するということだろう。結論的には、どちらも許容され、設立者の意思によって決まるということだろう。信託でも、特定の財産を出すのであれば、目的物を拘束するが、金銭を出すのであれば拘束しない。
- 基本財産の処分制限と基本財産の最低額の問題は分けて議論すべきであろう。
- 基本財産の処分制限は、すべて寄附行為に任せるのか、それともデフォルトのルールを法律で定めるのかということは、立法時に問題になろう。すべて寄附行為で定めるという立法にしたら、利用する側もかえって困るだろう。
- 寄附行為の基本財産に関する記載について、サンプル的なものを作ることができよう。
- 基本財産を処分すると民法53条・54条の問題になる。基本財産を処分してしまうと、財団の目的の不達成ということにもなるのではないか。
(同3 管理(ガバナンス)について)
- 財団の評議員は、法人と委任の関係に立ち、評議員としての善管注意義務があるのだろう。ただし、評議員会の権限は、社員総会に近い。
- 理事の各自代表は維持してよいだろう。各自代表は小さい法人にとっては便利なことがある。
- 評議員と理事・監事の兼任はできないのか。(←できないとすることを考えている。)
- 実際上、社団的な財団法人ではそのメンバーに対して評議員は少ないのが普通。この意味でも社員とは異なる。
- 委員会等設置会社は、業務執行(執行役)と監督(取締役)を分離した制度であるが、執行役と取締役の兼務を認めている。米国は業務執行者と監督者の兼任を認め、ドイツは兼任を禁止しており、世界で2つに分かれている。財団の評議員と理事の兼任を禁止するのであれば、ドイツ型ということになる。
- ただ、会社と異なり、社員総会がないという違いはある。兼任を禁止するということについては、妥当なことではないか。
(同4 寄附行為の変更について)
- B案は、設立者意思を強く認めるもの。寄附行為で変更の要件を極めて厳重にすることを定めた場合に、それで財団が困るのであれば、解散することになろう。
- その解散の要件が厳重であれば、法人が全く身動きをとれなくなることもあろう。
- そのときは、解散判決を求めることになるのではないか。解散判決の請求は会社では少数社員権とされているが、財団の場合は、利害関係者(評議員・理事・監事)が請求できることになろう。
- B案を採用して、要件の重さに上限を設けることはあり得るだろうか。ただ、何をもって要件が重いとするのかは難しい問題だが。
(←「寄附行為の変更禁止」を寄附行為に定めることの可否はどうか。)- 寄附行為の変更を認めないという意思を認めるかどうかということ。認めるならば、要件の上限を設ける必要はないことになる。
(同6 解散について)
- 法人の任意解散は、寄附行為者の意思をないがしろにするのではないか。
- 残余財産の帰属については、政策的な問題で、現時点では決められないのではないか。
● 検討課題(社団関係)について事務局から、「非営利法人WG資料18」に基づき、拠出金の拠出に関する規律について説明があり、以下のような意見が出された。 (拠出金の増加について)
- 拠出金の増加により、社員を増やすこともある。「理事が募集をすることができる」という意味は何か。
(←理事が社員に追加拠出の義務を負わせることはできない。単に募集をするというだけの意味である。)- 拠出者と社員の地位は制度上リンクしない。社員となるためには、拠出とは別に社員の資格の得喪に関する規律を満たす必要がある。
(現物拠出の手続について)
- 現物拠出の検査役による調査を廃止し、理事による設立手続の調査で足りるとするのはどうか。
- 会社法制の現代化に関する検討でも、現物拠出の検査役による調査を存置する方向。非営利法人法制として現物拠出の機能を債権者保護に置くかどうかによる。
- 拠出金を必ず設けなければならないわけではないが、拠出金を設ければ債権者保護につながるという点では検査役による調査を廃止する理由はないということか。
- 会社法制の現代化に関する検討では、検査役による調査の例外を現行商法から拡大する方向である。現行商法は、「資本の5分の1を超えず、かつ500万円を超えない場合」を調査の例外としているものを、要綱試案では「資本の5分の1」という要件を廃止し、金額の要件に一本化して範囲拡大する方向で検討している。非営利法人法制がこれに倣うとした場合、ボランタリーのものは、ほとんどがこの範囲に入るのではないか。
(拠出金の申込用紙について)
- 拠出金の設置は設立行為ではないとすれば、拠出金の拠出に関する申込用紙についてまで法定する必要はない。
以上