1.日時:平成16年9月15日(水)10:00〜12:30
2.場所:虎ノ門第10森ビル3階会議室
3.有識者会議出席者
(座 長) 福原義春((株)資生堂名誉会長) (座長代理) 能見善久(東京大学教授)
石川睦夫((財)住友財団専務理事・事務局長)
岩原紳作(東京大学教授)
勝又英子((財)日本国際交流センター常務理事・事務局長)
加藤秀樹(構想日本代表)
金子宏(東京大学名誉教授)
河野光雄(内外情報研究会会長・経済評論家)
関幸子((株)まちづくり三鷹事業部プロジェクトグループマネジャー)
田中清((社)日本経済団体連合会常務理事)
田中弥生(東京大学助教授)
東ヶ崎邦夫((社)日本アイソトープ協会理事・総務部長)
中田裕康(一橋大学教授)
(宇賀克也東京大学教授は所用により欠席。)(50音順) (政府側) 松田事務局長、西室長、横田参事官、岡本企画官、野口調査官 4.議事次第
○ 個別事項討議(1)
5.議事概要
○ 全体的討議(3)
資料1に沿って討議が行われた。主な意見は次のとおり。<1.公益性の判断要件のあり方>
(公益性を失った法人の財産の取扱いについて)
- 公益性を失った法人が寄付や労務提供等を受けていたことを考えれば、公益性を失っても残余財産を構成員間で分配できないようにすべき。共益的な法人にも同様の議論があり、残余財産を構成員に分配しないから寄付してほしいということもある。公益性の有無に関わらず、残余財産を構成員に分配可の法人と分配不可の法人の類型を分け、分配不可の法人類型選んだら分配可の法人に変更できないようにすれば寄付も集めやすい。また、事業内容は変わらないのに時代に合わなくなり公益性を失う場合や公益的事業の比率が低下して公益性を失う場合もあるが、このような場合、寄付者は事業に対し寄付するのであり、公益目的に財産を召し上げるというのは問題。公益性を失っても財産を保有できるが、残余財産に係る規定を変更できないこととすればよい。
- 一般の非営利法人の中に、構成員への残余財産分配が不可の法人を作ることはここでの議論の射程外。公益性を有する法人には残余財産の分配制限があるので、公益性を失った際には、取り上げるのではなく、処分制限付きの財産を非営利法人が引き継げばよいと思うが、残余財産の帰属の問題だけでなく、目的・事業の問題もある。仮に、スポーツ振興を行う公益性を有する法人が公益性を失った際、目的・事業が同じならよいが、目的・事業を変更してサッカークラブを始めた場合、財産について目的・事業に係る処分制限を付すべきかという問題がある。
- 公益性を失った際に財産に何らかの制限を加えるというのは皆異論ないのではないか。
- この論点には大きく2つ問題があり、1点目は公益性を失った際に、構成員に分配を認めるべきでない法人の財産をどういう根拠と基準で切り出すかということ、2点目は切り出した財産をどのようにして本来の目的に使わせるかということ。さらに、2点目のタイミングとして、@公益性を失ったとき、A一般の非営利法人として解散するとき、B公益性を失ってから一般の非営利法人の解散時までの間の3通り考えられる。切り出した財産をどう本来目的に使うかについては、残余財産に制限を課すとの考えが大勢だと思うが、それしか方法がないのか。非営利法人の解散時まで制限をかけることとすると判断主体による監督コストがかかる。切り出された財産を一種の信託財産と考えてそれをコントロールしておいて、途中でその分を類似目的の法人のために振り替えるというのであればそこで拘束が解けるという方法もあり得る。解散までの間に法人が幾つか選択できるといった方法もあるのではないか。
- 公益性喪失時に、法人として解散するわけではないが、財産的には公益性を有する法人の財産を一旦閉めて清算貸借対照表のようなものを作り、その純資産分は公益目的の財産と考えられるので、一般の非営利法人となってもその分の純資産は公益目的にしか使えない拘束資産とするという形もあり得るのではないか。
- 法律的な説明としては、信託的財産として引き継ぐ、すなわち、目的制限を受けた財産を引き継ぐこととなり、公益性を有していたときと同じ目的・事業の下で活動を行うのであれば一般の非営利法人が使ってもよいし、違う目的・事業の下で活動を行うのであればその財産に処分制限を付す形が考えられるのではないか。また、信託目的の拘束された財産とすれば、信託目的に使われているかどうかを誰が監督するかという問題もある。信託であれば受益者が監督するが、このケースは受益者が明確でない。このため、監督権限者としての判断主体ではなく、受益者的立場からの判断主体による軽い監督を残すということも考えられるのではないか。
- 公益性を有する法人の残余財産を類似団体や国・地方公共団体に帰属させるといっても、現行公益法人の場合、或る類似目的の団体に寄付したくても主務官庁が別の法人に帰属させるように言う。類似目的の公益的な法人の中からであれば、法人が自由に帰属者を決めてよいのか、判断主体の承認を要するのかが問題。
- 新しい判断主体を作り、判断主体が監督を行うことにしようとしているのだから、当会議では大枠を決め、詳細は判断主体で決めればよいのではないか。
(← 今後法制化作業に入るときに必要となるので、当会議で詰められるところはできるだけ詰めていただきたいと考えている。)- 公益性を失ったときに、財産を他法人へわたすということはあり得るのか。
- それもあり得るのではないか。その際、法人が自由に決められるのか、判断主体の承認を要するかという別の問題も生じるが。
<2.適正運営の確保のあり方>
(理事・監事の責任及び寄付者や国民一般による代表訴訟類似の制度について)
- 公益性のある法人の理事のフィデュシャリー責任を認めるべきというのは、理事等が受益者としての寄付者や国民一般に対し責任を負うことを明確にするべきということが最大の理由。その仕組みとして具体的にどのような権利を寄付者や国民に与えるかは別の問題。代表訴訟制度についてはドラスティックであり、公益信託でも責任追及の法的権限が受益者に与えられない。代表訴訟までは難しいということであれば、例えば、監事に対しての業務監査請求などもありうるのではないか。
- 理念としては、理事が社会一般に責任を負うが、代表訴訟制度はドラスティックな面もあり問題。また、一定の適格団体に訴権を認めることも考えられるが大掛かりで困難。他方、国民が判断主体に通報して、理事の責任を追及することが考えられる。
- 報酬のない役員の責任をどこまで認めるか考えるべき。実態として心配しているのは嫌がらせ的なもの。代表訴訟制度までいかなくても第3者機関を通じた対応をしてはどうか。
- 民間の公益的な活動を促進することを考えると、活動に参加しようとする意欲を阻害する制度をつくるのはどうか。ガバナンスが強化され、情報開示も徹底され、判断主体の事後チェックも行い、さらに代表訴訟制度類似の制度が必要か。代表訴訟制度類似の制度をつくると理事への就任を断る理由になってしまう。株式会社でも株主代表訴訟の行き過ぎを是正する方向である中で、公益法人で代表訴訟類似の制度を作る必要があるのか。
- 寄付者の立場から考えると、例えば、コミュニティーファンデーションにおいて、違う使途に寄付金が使われてしまった場合、寄付者は法人に対して訴えるのか、それとも理事に対して訴えるのか。
- 寄付は法人が受けるので、法人が義務を負い、同時に理事も義務を負う。しかし、寄付者が積極的に責任追及が出来るかについては現行の法律では難しい。寄付は贈与だと考えると法的には理事を追及しにくい。
- 不特定の第三者による代表訴訟制度を導入しても、実効がないし、ドラスティックであり理事も就任を逡巡する。これでは公益活動を阻害するおそれがある。また、非常勤の理事は、年2回の総会で事業計画等を審査するだけで不正があってもわからない。実態が分かっているのは常勤の理事。判断主体への通報制度をつくるのも1つの方法。
- 代表訴訟制度でなくても組織内部のガバナンスに期待するのが現実的ではないか。
- 公益信託などでも寄付者の本来の意思に反する使われ方が起こりうる。寄付者の意思といっても何年かたつと状況が変わり得るため、寄付者と協議して使途を変更することを了解してもらう。仮に了解を得られない場合でも、一気に代表訴訟制度に行くのではなく、両者の契約の中で対応すればいいのではないか。
- 寄付者・国民一般が提起する代表訴訟と、社員が提起する代表訴訟とに分けられているが、寄付者と国民一般とは違う考え方ができるのではないか。国民一般の代表訴訟はドラスティックではないか。法人の実態に必ずしも明るくない非常勤理事まで責任を負うとすると萎縮するのは理解できるが、常勤理事等が不当な行為をした場合に責任追及できるようにする仕組みは用意するべき。WGの議論では、非常勤役員については、株式会社に準じて責任制限を認める方向で検討中である。公益性を有する法人の多くの理事が無報酬であることを踏まえれば、実質的には責任の追及は限られることになる。また、社員による代表訴訟制度は、中間法人法等に準じて、一般の非営利法人について設けるべき。
- 代表訴訟制度ではなく、悪質な役員は一般の民事・刑事の訴訟で対応できるのか。
- 対応できるが、実効性を考えると、社員による代表訴訟制度は必要。
- 大規模法人における代表訴訟制度は可能性があるが、特に福祉系、子育て系の地域型の小さな法人にとって、代表訴訟制度が導入されると、理事になりたい人の意識を阻害することになる。代表訴訟制度ではなく、通報や外部チェックの強化の方が望ましいのではないか。これから公益的な法人を発展させようという時期であり、導入の検討は後でもいいのではないか。
<3.判断主体のあり方>
- 公益性判断に係る審査を民間機関に委託する、という考えもあるのではないか。
- 民間機関の構成員は選挙を経ているわけでもなく、当該審査の委託は、何らかの形で正統性が確保されないと難しい。また、審議機関には相当な業務量が発生することが見込まれるため、常勤の委員が必要。
- 行政改革が叫ばれる今の世の中では、行政委員会を設置するというのは論外。証券取引等監視委員会は、難しい仕事だが、審議機関の形態でこれまで相当やってきている。公益性判断等は、相当な業務量だから容易でなく、人員が多く必要になるが、審議機関を工夫して作るしかない。
- 国だけではなく、都道府県単位でも判断主体を設置すべき。地域限定的に公益的活動を行う法人については、国ではチェックが行き届かないことも考えられ、活動の現場に近いレベルで公益性判断を行うべき。
- 地方における判断主体のことが今回の資料に記述されていないのは不適切。地方における判断主体のことも議論するべき。この改革の出発点として、公益性判断は、本来行政が行うべきものというのではなく、行政から距離を置いて、社会全体で行うべきものだということではないか。また、行政からワンクッション置いた判断主体をなるべくローカルなレベルに設置して、判断主体が用いる公益性の判断要件を、そのまま税制当局が税制上の措置の適用の判断に用いる、という考え方もあるのではないか。
(← 地方における判断主体については、もちろん検討するべきことであり、今回の資料は、地方公共団体において公益性判断を行わないこととした趣旨ではない。)- 今の主務官庁は、各分野の公益性の判断に係る有益な情報など有していないというのが実感。公益法人関係事務の担当官は、政策と直接関係ない部署にいる。主務官庁による公益性に係る審査の実態を知らない人が多い。
- 今の主務官庁は、公益性判断をするときに形式基準にこだわりすぎ、実質をみない例がある。ならば、ローカルなレベルで実質的に公益性判断をするべき。すると、情実による運用がなされる懸念もあるが、形式的と実質的との間のバランスをとるということが重要。
- 公益性判断が形式基準なしに実質基準だけに拠るようになると、それだけ裁量の余地が拡大することになる。
- 公益性判断を行政に独占させるのではなく、社会全体で行うべきだという点に賛成する。行政機関の内部に審議機関を設けるとしても、行政の独占とはならないような従来とは異なる運用をすればよい。また、税制当局が公益性判断を行うべきではなく、税制上の措置を与えるべきかどうかの規準は、判断主体が設定するものと一致すべき。
- ルール・オブ・ローの考え方から、判断要件の設定の権限を判断主体が有するべき。判断要件への適合性の審査は、合議制の審議機関で行うべきであり、税制当局が改めて公益性に係る判断を行うのは適当ではない。法人の事業が税制上の収益事業に当たるか否かの判断は、税制当局が行うべき。ただ、現行の公益法人制度では公益性の判断基準が各主務官庁によりバラバラであり、そのような主務官庁の許可に基づいて一律に税制上の措置を認めるのが適当かどうか疑問もあるので、この点については、特定の大臣の下に判断主体を設置すれば、改善されるだろう。地方における判断主体については、知事の下に審議機関を置いて体制を整え、公益性判断をきちんと行わないと、税制に係る措置の面でも困ることになろう。判断要件の設定主体と税制上の措置を判断する税制当局とが別になることについては、判断要件自体がそれをもとに税制上の措置を講じてよいかどうかという問題も考えられるが、判断要件等を決める際に、判断主体と税制当局との間で協議する、意見聴取する等々の工夫ができるのではないか。
- 地方分権の流れがあり、そのことを考慮に入れておくべき。また、ルール・オブ・ローの考え方は、情実による運用を排除するためにも重要。我孫子市の補助金公募制の事例のように、行政からワンクッション置くようにする工夫が必要。
- 民主主義による政治体制では、政府が最終的に責任を終えないところで公的な判断ができるわけではない。判断主体が実質的に政府ではなく民間機関だとしても、行政は、あくまでその意見を尊重するのであり、最終的な責任は行政が負うべき。
- 判断要件をできるだけ形式基準にしても、特定公益増進法人制度や認定NPO制度のように、実際にはかなり裁量が生じる。NPOと認定NPOのように判断主体が二段構えになっているのは、屋上屋であり、法人側に大変な負担。
- 民間機関による公益性判断については、「議論の中間整理」で記述したとおり、考え方Aに基づいて、民間の考えを反映できるような仕組みを目指して検討を進めるべき。地方における判断主体については、国と地方とで、判断要件や事後チェックのあり方など、公益性判断の統一性を確保するための連携を図るべき。
- 公益性判断と事後チェックの両機能は、事後チェックが公益性判断の不当を指摘するケースもあり得るので、同一の組織内で行うにしても、両機能間に相互牽制を働かせるべき。
<4.公益性を有する財産形態の法人に固有の必要な規律>
(評議員構成の制限について)
- 非営利法人WGの案では、評議員会を握ればすべてを握ることができ、理事会よりも大きな力を持つこととなる。仮に評議員会が全人事権を持つとするのであれば、評議員会に対する制約は、現在よりも強いものが求められるのではないか。ただし、そもそも評議員会をどのように位置付けるかという部分から、考える必要があると思う。
- 非営利法人WGでは、評議員会について理事会を超えるようなものとは考えていない。発想としては、社員総会に近い位置付けにできないかというもの。日常的な判断は理事会にあるとしており、実際の業務上は問題がないのではないか。
- 評議員会が自らを選ぶとなると、それを通じて財団を支配できるようになる。評議員の選任については、現状のほうがよい。
- 実務経験からして、評議員会はまったく機能していないと思っている。ただし、理事会との互選にすればチェック・アンド・バランスが保てると考えていたが、なぜ非営利法人WGでは評議員を自ら選ぶとしたのか。
- 非営利法人WGでは、評議員会について理事会を監視するものと位置付けており、監視される側が監視する側を選ぶのは変だろうと考えた。
- 評議員会を諮問機関として位置付けるか、監督機関として位置付けるかで異なる。自分は諮問機関という位置付けであるべきと考える。そもそも評議員会は、社団法人の社員総会と並ぶような位置付けにはなりえないのではないか。仮に社員総会に並びうるものが財団法人にあるとすれば、それは財団の出捐者ではないか。
(文責:内閣官房公益法人制度改革推進担当)