1.日時:平成16年6月30日(水)10:00〜12:30
2.場所:虎ノ門第10森ビル3階会議室
3.有識者会議出席者
(座 長) 福原義春((株)資生堂名誉会長) (座長代理) 能見善久(東京大学教授)
石川睦夫((財)住友財団専務理事・事務局長)
岩原紳作(東京大学教授)
勝又英子((財)日本国際交流センター常務理事・事務局長)
加藤秀樹(構想日本代表)
河野光雄(内外情報研究会会長・経済評論家)
関幸子((株)まちづくり三鷹 事業部プロジェクトグループマネジャー)
田中清((社)日本経済団体連合会常務理事)
田中弥生(東京大学助教授)
東ヶ崎邦夫((社)日本アイソトープ協会理事・総務部長)
中田裕康(一橋大学教授)
(宇賀克也東京大学教授、金子宏東京大学名誉教授は所用により欠席。)
(50音順) (政府側) 堀江事務局長、西室長、長屋参事官、田中企画官、岡本企画官、野口調査官 4.議事次第
○ 情報開示のあり方
○ 事後チェックのあり方・判断主体のあり方
5.議事概要
○ 情報開示のあり方
事務局から、資料1「説明資料(情報開示のあり方)」について説明があり、その後、討議が行われた。主な意見は次のとおり。(1)情報開示の必要性
- プライバシーは保護すべきだが、出来る限り情報開示すべき。社員の住所を記載した社員名簿が名簿業者に流出し、社員からクレームがついたことがあるが、これ以外は開示しても問題はない。
- 指導監督基準に定める事項をインターネットで開示しているが、特に問題はない。ただし、役員の名前はともかく住所は公開すべきでない。
- 最近の世間相場からみて、住所は公開しなくてもいいが、それ以外は資料に示された方向でよい。
- 情報開示には、@債権者に対する主として会計情報を中心としたもの、A受益者である社会に対するもの、B社員に対するもの、という3種類があり、それぞれ開示すべき内容やその理念が異なる。社員の住所については、特に社員が多いような組織では、社員に対して他の社員の名前は開示されてもよいのではないか。
- 同じ社員であれば、他の社員の住所を教えても構わないのではないか。
- 社員からの個別の問い合わせに対し、他の社員の情報を教えることはあるだろうが、名簿の形にして閲覧に供することとすると外部に流出する可能性がある。
- 一定数の社員が集まって団体訴訟が提起できるという話になれば、社員は他の社員について知る必要があろう。
- この有識者会議に参加する法人は社会的にも認知された団体であるが、今後出てくる法人の中にはその会員であることが他に知られたくない場合もあり得ると考えられる。社員名簿の扱いについては、より広い範囲の関係者の話を聞いてみてはどうか。
- 社員名簿は一度できてしまうと流出する可能性がある。中でも電話番号は扱いに慎重を要する情報である。
(2)情報開示の事項と相手方
- 申告された情報が虚偽であることがはっきりした場合、どのようにすべきか。
- 透明性を求めすぎることによって、逆にカモフラージュされてしまうという面もある。
- 商法では虚偽の申告に対する制裁もあるが、民法上の法人に対しては、ソフトな対応がなされるべきではないか。ただし、これは虚偽であればどのような事項であろうと制裁を課すというのではやりすぎではないかという趣旨。会計情報など重要な情報の虚偽であれば、制裁ということがあっても良い。
- 事業報告書や貸借対照表は、ほとんどの法人で開示されているだろうし、今後も開示される必要がある。これに加え、今後は総会や理事会で何が審議されたか、何がどのように決まったかも公開されていくべきではないか。
- 議事録は作成することとなっているため、それを公開してもよいし、何が決まったかだけを公開するとしてもよいだろう。理事会が開催されたかどうか明快でない法人もあり、そうした情報を明らかにすることはガバナンスの強化につながっていこう。ただし、どのような情報が開示されるべきかの議論に当たっては、現在公益法人が主務官庁に提出している管理台帳や外国の事例は参考になるだろう。
- 主務官庁に提出しているからといって、その情報を一般に公開するかは別の判断。また、総会を開催したことすら公開されていない法人もあることから、まずは会議の内容を細かく公開するよりも、会議が開催されたかといった程度を必要条件として一般に開示するということにすべきではないか。
- 公益法人の中には自己評価や第三者による評価を行っているところがある。その評価内容について開示を義務づけることはいきすぎで、任意の開示とすべきと考えるが、こうした評価を行っていたり、受けていたりしているかどうかについては開示することがあってもよいのではないか。
- アメリカではガイドスターという民間非営利団体が、内国歳入庁に提出された非営利団体の書類をデータベース化し、分析の上インターネット上で公開している。さらに希望する団体に対しては、別途独自の調査を行い、その結果についても公開している。こうした仕組みにより、毎年情報開示を行っている団体や評価のよい団体は社会的な認知度を高めていっているという面がある。
- 税優遇を受けるなら主税当局にも情報開示すべき。プライバシーを盾に情報開示はしないという態度は、もういい加減やめるべき。もちろん、そうして入手された情報を役人が濫用するというのは言語道断。
- 一定規模以上の収入のあるアメリカの非営利団体は、内国歳入庁に申請して免税扱いを受ける必要。非営利団体が内国歳入庁に情報開示するのも、税優遇を受けているという理由による。
- 公務員もやめれば民間人となる。元公務員とはいっても既に民間人である者について、元公務員であったということだけで前職の公開を義務づけるのはおかしいのではないか。
- それが常識になるのには10年かかる。今はそういう情報にはニーズがある。
- そもそも改革の一つのきっかけには天下り問題がある。この点に現在も国民は関心を持っており、当面の措置として前官職や報酬の有無、報酬額を開示すべき。
- 当面はやましいところがないという意味で開示すべきだろう。
- そういう結論になるのであろうが、社会もバイアスがかかっている部分もあり、開示を義務付けるのであれば原理原則を明らかにした上で、社会の要請があるため開示することとしたという開示の仕方をとるべきではないか。
- 社会のバイアスといっても、それなりの理由があって時間をかけてできあがってきたもの。社会のバイアスという捉え方は適当ではないと思う。
(3)情報開示の方法
- 今の時代、誰にでも見てもらうという方法として、インターネットでの公開が一番よい。効率的なチェックも期待できるし、費用もそれほどかからなくなってきている。
- 実は小さな団体ほど、情報化やIT化が必要。インターネットでの情報開示が義務づけられることにより、小さな団体のそうした取り組みを後押しすることにもつながるのではないか。費用も下がってきており、共同でホームページを開設するといった手段もある。
- 一方でデジタルデバイドという問題もあるため、何らかのサポートとセットで考えるべき。
- インターネットで公開することを義務づけても、法律にすることは難しいのではないか。ただし、インターネットで公開しなければ評価が下がるという社会的なペナルティーがあるとも考えられる。
- (資料1の5ページ目に)「正当な理由等により情報開示の拒否が認められる場合」という記述が資料にあるが、どういうことが想定されるのか。
(← 閲覧請求権の濫用と認められる場合、例えば、名簿屋からの開示請求などが考えられる。)- 昔はオレオレ詐欺などなかったし、法人になれない同好会などに対して銀行は簡単には口座を開いてくれなかった。指導監督基準が作られた時代とは、大きく変わったということは認識すべき。
○ 事後チェックのあり方・判断主体のあり方
[1.事後チェック(監督)のあり方]
事務局から、資料3「説明資料(事後チェックのあり方・判断主体のあり方)」のうち「1.事後チェック(監督)のあり方」について説明があり、その後、討議が行われた。主な意見は次のとおり。(1)総論
- 公益性の判断機関が一元的に監督・検査を行う仕組みがよい。
- 現在3年に1回、立入検査が行われているが、その検査項目は非常に細かい。事後チェックにおいて重要なのは、@公益活動を適正に行っているか、A非営利性を逸脱していないか、の2点であり、理事長についての定めはどうなっているかといったような細部にわたるチェックには意味がない。
- 公益法人が問題視された根底には、指導監督・許可の問題と相まって、法人自身がガバナンスを失ったことがある。ガバナンスが機能しているかどうかのチェックも必要。
- ガバナンスは法人自らがやるべきであり、監督官庁が法人のガバナンスに口を出すのは行き過ぎではないか。ただし、ガバナンスをチェックするかというのは1つの論点足りうる。
- 事後チェックは情報開示とセットで考えるべき。現行の26,000の法人の存在、さらに新規に参入する法人のことを考えた場合、現実としてどれだけ細部までチェックできるか疑問。中身には立ち入らないが、情報開示を通じて、理事会等の開催や決算報告等の作成といった基本的なルールが守られているかをまず確認すべき。
- 公益性と非営利性をチェックすべきだが、主観が入る問題なので、何をもってチェックするかを考える必要。
- 事後チェックを行う機関は、公益性を有する法人が国の仕事の一部を担うことを念頭に、勧告の命令等いわゆる監督業務ばかりではなく、助言や、金銭的なものではない支援も行う機関であるべき。公益活動をしようという発想で入ってくる法人の中には制度を熟知していない場合がある可能性は十分あることから、こういった法人に対して適切な助言が必要。チェックというと悪い法人をつぶすというイメージが強いが、事後チェック機関は公益活動を振興する機関であるべき。
- 問題のある法人をきちっと検査する必要があるが、判断機関はあまり大規模にならないだろうし、全体としての効率性の向上も考えれば、細部まで立ち入るべきではない。ガバナンス・情報公開がしっかりしている法人には検査間隔を広げるなど、メリハリをつけて事後チェックを行うべき。
- 団体のミッションはそれぞれ異なるが、公益活動に従事する者は自分たちの事業に対する社会的な評価を知りたい気持ちがある。事後チェック機関は法人の活動を是正させるための監督を行うより、法人を応援しつつ、評価するという性格を前面に出すべき。今後は新たに公益性を有する法人として認められていくのは往々にして小規模なものであろうから、そうした法人が大海の中で迷わぬようにすべき。
- 公益性を有する法人の活動をほめながら育成していく視点は重要。
- 公益性を有する法人への助言・支援はあってよいが、それを行政が行うべきかは疑問。仮に行政が支援を行うとしても、事後チェックを行う機関と分けるべき。また、行政による支援は、法人に依存心を植えつけるおそれがあることに注意が必要。
(2)事後チェック(監督)の手法
- 国民一般による通報制度を設けた場合、反社会的勢力が悪用することもあるので、慎重な取扱いの検討が必要。
- 通報制度については、法人のことを真剣に考えた上で通報する内部告発者をどう取り扱うかが重要。
- 代表訴訟については、市民一般が原告適格を持ってもよいと考えるが、通報制度は少し異なる。代表訴訟は個人が原告として出て責任を負いつつ行動するが、通報制度では出てこない。内部からの告発、事情に通じた人からの通報自体はあってよいが、通報制度を法人制度の中に組み込む必要はない。
- 更新制度の導入は必要。
- 更新制度にマイナスの面がないか考えたほうがよい。マイナス面としては、法人が活動する上で萎縮効果を生じうること、それから、更新時に判断主体がフリーハンドで、更新をしないとすることができるというイメージがあることが挙げられる。期間中であれ、期間満了時であれ、判断主体が、公益性を安易に取消すことはできないし、すべきではない。更新制度の長所短所を考えてみると、どの位更新制度の実質的意味があるのか疑問。方法としては更新制度を設けず無期限にしておいて、一定期間ごとにまとまった検査を行うことも考えられる。
- 更新制度は監督機関の事務の効率性の面で疑問。常時ウォッチしているという体制を示すことが重要ではないか。
- 公益法人が一旦公益性を付与された後、税の優遇を受けつつその地位に安住してしまい、活動がアクティブでないことに社会的な批判があることから、更新制度は必要。更新制度のマイナス面も十分検討する必要はあるが、努力目標を提示するという意味でプラスの効果もあるのではないか。
- 更新制度が可能か疑問。運転免許証の更新のように形式的なものであれば意味はない。個々の法人ごとに過去数年の事業の適正性を検証するには数ヶ月も要するのが現状であり、チェックする法人の数も考えると更新制度は現実的でない。日常的に適正な活動を行っている法人と、そうでない法人とを仕分けられる仕組みを考え、後者に対し不定期であっても立入検査を行う仕組みを設けるべき。
[2.判断主体のあり方]
事務局から資料3「説明資料(事後チェックのあり方・判断主体のあり方)」のうち「2.判断主体のあり方」について、また、加藤委員から「加藤委員提出資料」について、それぞれ説明があり、その後、討議が行われた。主な意見は次のとおり。(1)基本的考え方・視点
- 我孫子市の事例がうまくいっているのは、件数が少ないこと等のほか、現市長のイニシアチブに負うところが大きい。当初、合議制による判断の際の基準が抽象的だったが、事例を重ねてきており、判断の基準をより明確なものにするため、ガイドラインが作成されている。
(2)判断主体としての公的機関のあり方について
- 行政委員会がよい。審議機関では、公益性に係る判断が大臣と審議機関との二重構造で行われることになり、中立的・第三者的になりきれない。KSD事件のような不祥事が発生して政治問題化した際には、行政委員会自体が調査を行うことは不可能であり、それはむしろ、行政委員会が検察なりにゆだねるべきこと。
- 行政委員会に賛成。判断主体の独立性を重視したい。判断主体が担う事後チェックには、準司法的権能が必要となるか。行政改革の時代でもあるので、行政機関の新設が困難な状況であれば、既存の行政委員会を活用することも考えられないか。
- 判断主体の機能は、大別して@公益性の認定、A事後チェック、B不服申立て。@〜Bは、ひとつの機関で行うのが望ましい。判断主体は、非営利法人による公益的な活動を促進する、という独自のプリンシプルを有するものであるべき。行政委員会が望ましいが、困難であれば審議機関でも構わない。独立の事務局を有することとすれば、行政委員会と同様のものとなり得るのではないか。
- 既存の行政委員会の活用では、公益性に係る判断という業務を行っていくことは困難ではないか。判断主体の事務局の体制の充実は重要。
- 現実的にどうかというよりも、本会議としては、理想を言えばよい。行政委員会という提案をすることに遠慮することはない。パブリックを担うのは既存の行政機関だけではないという考え方を示すためにも、独立の行政委員会とする方がよい。
- 我が国では、行政委員会という手法がなかなか受け入れられていないというのも事実であり、現実の枠の中で可能かどうかということを考えざるを得ない。判断主体は、社会に対して責任を果たしていることをきちんと示すことができなくてはならない。また、判断主体の実際上の問題は、予算と人員とをどれだけ独立させられるかということ。この問題は、審議機関とする場合でも同じ。英国では、公益性に係る判断主体ではないが、監督対象者から直接経費を徴収する行政機関の例がある。
- 英国のチャリティ委員会は、我が国でいえば行政委員会に当たるのであろうが、規模が大きすぎて、現実を考えた場合、例とするのは適当か疑問。行政委員会については、資料の備考欄で指摘されているような問題点を克服できるかどうかをきちんと議論すべき。他方、審議機関の場合は、工夫によりどこまで行政委員会的なものに近づけられるかが課題。行政法の専門家の意見を聴きながら検討すべき。
(3)地方における判断主体のあり方について
- 我孫子市の事例は大変興味深い。今後は、全国統一基準による公益ではなく、地方の独自性を認める時代。非営利法人の活動の現場に近いところで公益性に係る判断を行うべきであり、都道府県レベルの行政委員会を設け、公益性に係る判断の殆どが地方公共団体で行われるようにするべき。さらに、この事例を見ると、基礎自治体でも公益性に係る判断が可能かもしれない。
- 判断主体の予算の問題は大きい。国の予算だとチェックがどうしても厳しくなるので、何らかの形で判断主体が自動的に収入を得られるような仕組みを検討すべきではないか。
- 複数の地域を拠点として活動する非営利法人の公益性は国が判断するということについて、NPO法人の場合には、内閣総理大臣の認証がほしいために複数の都道府県に事務所を置くなど本末転倒のケースがあると聞いている。国が公益性を判断する場合と都道府県が判断する場合とで信用格差が生じるのは適当でない。国のお墨付きが大きいということになり、今回の改革と逆の発想につながるので、そうならないよう工夫が必要。
- NPO法人がこれだけ多い中で、活動を見ずに認証機関の名前だけを見て判断することはありえない。時代とともに国民の法人を見る目は養われ、信用格差というのは薄まるのではないか。
- これからの小さな公益性を有する法人は現場に近いところで公益性を判断すべきであり、都道府県にも同じような判断主体を設けるべき。また、活動が都道府県をまたがる法人であっても、その主たる活動地域や主たる所在地が存在する都道府県で判断するという考え方もある。
- 全国的な公益性の判断要件があり、それに該当しない法人でも都道府県が独自の基準で公益性を認め得るといった意味で、公益的な活動が広がるような運用が必要。団体から見れば、都道府県をまたがる場合、どちらかの都道府県の判断を受けないといけないというより、どちらかを選べるということでも構わないのではないか。
- 判断主体のあり方については、事後チェックの機能や情報がどこに集中すべきかという問題もある。都道府県に公益性を有する法人の情報がとどまるよりも、どこかに全国統一的に情報が集まるところがある方がよいのではないか。
(文責:内閣官房公益法人制度改革推進担当)