1.日時:平成16年6月17日(木)9:30〜11:45
2.場所:虎ノ門第10森ビル3階会議室
3.有識者会議出席者
(座 長) 福原義春((株)資生堂名誉会長) (座長代理) 能見善久(東京大学教授)
石川睦夫((財)住友財団専務理事・事務局長)
金子宏(東京大学名誉教授)
河野光雄(内外情報研究会会長・経済評論家)
関幸子((株)まちづくり三鷹 事業部プロジェクトグループマネジャー)
田中清((社)日本経済団体連合会常務理事)
東ヶ崎邦夫((社)日本アイソトープ協会総務部長)
中田裕康(一橋大学教授)
(岩原紳作東京大学教授、宇賀克也東京大学教授、勝又英子(財)日本国際交流センター常務理事・事務局長、加藤秀樹構想日本代表、田中弥生東京大学助教授は所用により欠席。)(50音順) (政府側) 堀江事務局長、西室長、長屋参事官、田中企画官、岡本企画官、野口調査官 4.議事次第
○ ガバナンス・情報開示のあり方(2)
○ 非営利法人ワーキング・グループの検討状況報告(3)
○ 公益法人の実態等に関するヒアリング調査の状況について
5.議事概要
○ ガバナンス・情報開示のあり方(2)
事務局から、資料1「説明資料(ガバナンス・情報開示のあり方)」について説明があり、その後、討議が行われた。主な意見は次のとおり。[2.ガバナンスのあり方]
- 公益活動の担い手を広げるという観点から、公益性の認定要件はあまり高いハードルとすべきでない。ただし、公益性が認められた場合には、それにお金を出した人に対してだけではなく、直接契約関係のない社会一般に対しても説明責任が生ずると考えられ、それを基礎付ける理論的根拠が必要。契約関係になくても一定の第三者のために受託者が責任を負うものとして信託制度があるが、公益法人も社会のために財産を預かっているという観点から、理事についてもフィデュシャリー(受託者)の責任を基礎として考えていくべき。寄付者の代表訴訟を認める意見もあるようだが、寄付はヒモ付きであるべきではなく、むしろ訴権は国民一般に対して認められるべき。
- 公益性ある法人のガバナンスや情報公開は、優遇措置との関係で考えるべき。また、現在は株式会社でいうところの委員会等設置型のガバナンスしか想定されていないが、監査役型のガバナンスについても認められるべき。公益法人は中間法人と異なり、社員共通の利益を図る必要はなく、また利益処分といったこともない。理事、評議員、監事等の存在からガバナンスは十分であることを踏まえると、公認会計士の監査があれば代表訴訟を認める必要はないのではないか。
- 公認会計士による監査は小さな団体では難しい。法人の規模に応じて考えていく必要がある。
【残余財産の帰属関係】
(7)残余財産の帰属について
- 残余財産の分配という言葉は、使う人によって多義的であり注意が必要。原則として、拠出した分を拠出者に戻すことは、非営利にも公益にも反しないと考えられ、民法も本来そのような考え方である。ただし、非営利というからには、活動により増えた分を拠出者に分配することは不可である。一方、残った財産の中には拠出者による拠出分、寄付者からの寄付分、税優遇等による蓄積分などが含まれており、残った財産がどれに当たるか区別するのは難しく、拠出された分を拠出者に戻すということが社会的に説明できるかどうかは留意する必要がある。いずれにせよ無制限に認められるものではなく、残ったものがあれば拠出者に戻すということが事前に明確にされ、寄付者もそれを了解していることが必要。また、仮に拠出分の返済がなされるものには公益性が認められないとしても、非営利法人としてはどちらでも選択できるようにしておき、公益法人となるには定款で分配できない旨規定する必要があるという形にすべき。
- 民法としては、一定の期間私財が公益的なものに使われ、事業が終わったら出した分だけ出した人に戻ってくることがあってよいという考え方であり、むしろそれによって公益事業の発達が奨励されるという面があった。しかしながらその後、いろいろな問題があるとして制限されていったが、自分としては出した分だけ出した人に戻るということがあってもよいと考える。ただし、出した分とは何なのかは難しい問題。社会に帰属すべき分を判断する何らかの客観的な基準ができればよいと思う。重要なのは、社会に戻すべき分は戻さなければならないという点。公益性が認められた法人が、その後公益性が認められなくなった場合についても、その財産に対する扱いは制裁的なものではなく、社会に戻すべき分は戻すという考え方で臨むべき。
- そうなれば大改革。世の中にも大きなインセンティブを与えることになるだろう。ただし、技術的には難しい問題かもしれない。その場合、基本財産だけ戻ると考えてみてはどうか。
- 基本財産がどう構成されているかが問題。基本財産は増えることもあり、基本財産だけで切り分けられるかどうかは分からない。
- 基本財産で考えれば帰属先もはっきりしており、切り分けも簡単なのではないか。
- 税務の面で問題があるのではないか。出したものは戻らないから損金で落とせるわけであり、戻せるということになったら損金で落とせないのではないか。また、出した分は戻してもよいとなれば、それは相続できるのかといった問題も生じてくる。そもそも、一旦出したものを戻すというのは潔くない。
- 戻るという場合、元本だけなのか。利息分も含めるのか。
- 法定利息分までは認めても良いという考え方もあろうが、基本的には元本だろう。
- 土地を寄付した場合、その後値上がりした場合はどうなるのか。一つのアイデアだが、拠出した金額以上の額が拠出者に戻るような場合、その部分については清算所得課税のような考え方を導入してみてはどうか。一定のものに対する抑制効果はあるのではないか。
- 現在のところ、基本財産としての土地は広さだけが取り上げられ、金額的な評価がなされる形になっていない。
- 公益活動に対する資金提供者が少ない中で、元本を拠出者に戻すことが可能な仕組みというものができることに期待したい。寄付は一度出してしまったらそれまでだが、一定の期間は公益のためにお金を出そうという人はかなりいるだろう。こうした形の資金が公益事業に流れてくるということになれば、公益法人そのものの改革にもつながるのではないか。
- これは重要な論点であり、テイクノートすべき。
- 税優遇は国民広く一般からの補助金ともいうべき性格のもの。税優遇を受けつつ公益活動を行い、その点に配慮しないで残余財産を拠出者に戻すという制度は公平性に欠き、国民からの支持は得られないのではないか。そのような考え方があるのであれば、公益法人制度とは別のものとして考えるべきではないか。
- 残余財産の中に寄付を受けた分、税優遇を受けた分、ボランティアを受けた分などがあれば、そうした部分は社会に帰属すべきであって、こうしたものを戻した上でなおかつ残るものがあれば、出した分を出した人に戻すということがあってもよいと考える。
- 細かい話は別として、税優遇に見合う分は公益活動によって既に社会に還元されており、出した人に出した分だけ返すこと自体はおかしくない。損金扱いできるかどうかは技術的に難しい問題だが、例えばお金を出す人の選択に任せるなどの対応によって何らか解決できるのではないか。
- 損金処理ができるから大きなお金が動くのであって、そうでなければ大きな額の出資金は出てこないのではないか。
【財務関係】
(8)内部留保のあり方について
- 指導監督基準において内部留保についての規制が盛り込まれたのは、対価を取る事業を盛んに行って収益を上げ、多量の内部留保を保持しているのに公益事業をきちんと行っていないケースがあったことが発端。しかし、指導監督基準における内部留保とは手許流動性を意味するものであって、公益事業を拡大していくのなら、それに見合った内部留保は必要であり、規制のピントがずれている。内部留保を一律の数値基準で規制するのは、適当ではない。米国のペイアウトルールのような仕組みを導入するということも考えられる。
- 公益法人の実務に携わっていると、手許流動性が高まると、会費を削減すべきという会員からの声が上がり、社員総会、理事会等において考慮せざるを得なくなる。法人の自律性を重んじ、ガバナンスの実効があれば、手許流動性について数値的な基準により規制せずとも足りる。実務上は、会費が実際に入ってくるまでの繋ぎ資金として1年分くらいの手許流動性がないと、円滑な運営が難しい。
- 行政側と密接に結びついて利益を上げ、内部留保を溜め込んできたような既存の公益法人が問題なのであって、これらの法人とこれから公益性を有する非営利法人として認めてもらって活動に取り組もうとする新しいものとは別に考えるべき。こうした問題ある法人も含めて甘い取扱いをするようであれば、世の中の理解を得られないと思う。
- 引当金を内部留保として認めるか認めないかで、主務官庁が不統一で恣意的な対応をしている例がある。
- 内部留保の適切な水準が満たされることを担保するためには、法令上の規律と情報開示を通じた社会監視との両方が必要。
(9)管理費等の水準について
- 非営利法人の業種・業態が多様になってきているので、管理費等について一律に数値で枠を嵌めるのは無理があり、反対。
- 財団法人の中には、その事業の性格から、現行の「2分の1」という基準を単純に当てはめるのが不適当なケースがあった。数値的な規制には反対。
- 殆どの社団法人の場合には、現行の「2分の1」という基準は足枷となる。社団法人は人の集合なので、人件費を含めた管理費等がかさむことが多い。管理費等がかさみすぎるというのは、経営上の問題であり、そこまで規制を及ぼす必要はないのではないか。
- 「2分の1」という基準の設定の仕方では、法人の規模によってはいくら「2分の1」でも管理費等の上限が相当な高いものとなる。法人の規模が大きくなるにつれ管理費等の上限を徐々に低下させるようにすることが必要ではないか。
- 管理費等について数値的な基準で規制するのではなく、むしろ、公益事業がきちんと行われているかという原則を立てるべき。
(10)財産的基盤の確保について
- 財団法人は財産に対して法人格を与えており、一定の財産的基盤は必要。ただし、公益性があるかないかで求められる財産的基盤が異なることはないのではないか。社団法人に対しては財産的基盤を求める必要はないだろう。
- 実務上、一定の財産的基盤がないと法人運営ができないのも現実。一定の財産的基盤を公益性の要件とするよりも、例えば資本金制度のように財産的基盤が作りやすいような仕組みを導入すべき。
- 一般的に財産的基盤が求められるのは、債権者保護の観点からであるが、会社法では資本金制度について制限を撤廃する方向で検討が進められている。全体として公益性の要件をできるだけ幅広くとることも考えられるが、他方何も要件を決めないと公益性を判断する基準がはっきりしなくなるのではないか。
- 法的に決めなくても、実務的に決まってくる部分もあり、それをどう考えるか。
【その他ガバナンスに係る規律関係】
(11)株式保有等制限について
- 株式はリスクもあり、保有する必然性はないと思うが、それを規制するかどうかは別の問題であり、制限は設けなくてもよい。
- イギリスでは基本的に収益事業は子会社で行うこととされ、公益法人は子会社の株式を保有している。これなら税制面で他の営利企業と不公平が生じず、透明性も確保される。単純に株式を持ってはいけないとする議論の趣旨が不明。アメリカの財団は運用財産の7〜8割を株式でもっている。分散投資を図りながらインフレヘッジとして株式をもつという考え方もある。
- 株式は資産運用という視点だけではなく、関係者との関係構築・維持のためという視点もある。
- 株式を基本財産とした法人で、株式分割により株数が増え、配当も増えてきたことから活発な活動を行っているところがある。重要なのは、株式を保有しているかどうかではなく、公益的な活動をしているかどうか。
- この種の規制は不要。財務の健全性は各法人が自ら判断することであって、国が関与する話ではない。
- この種の規制の背景は不明だが、公益法人が別に会社を作って公益法人の役員がその会社の役員になるという濫用の心配はあるのではないか。
- 株式保有を資産運用の問題として捉えるだけでなく、会社支配とその濫用という視点から考えることも必要。
(12)その他
(特に意見なし)○ 非営利法人ワーキング・グループの検討状況報告(3)
能見非営利法人ワーキング・グループ座長から、資料3「非営利法人ワーキング・グループにおける検討状況について(その3)」について説明があり、その後、討議が行われた。主な意見は次のとおり。
- 近年、団塊の世代や主婦、高齢者層を中心として、地域で何かやりたいという思いが高まっているが、継続して事業を行うためには一定程度の財産的基盤を持つことが重要であり、そのために財産拠出型の非営利法人という制度が必要。また、地域で活動する団体の活動を応援したいという企業や個人が地域に存在しているが、現在は資金の受け皿として寄付しかない状況。実際に資金を提供する側の選択の幅を拡大するためにも、財産拠出型の非営利法人が必要。
- 親会議において公益性の基準を検討する際に、財産拠出型の非営利法人であっても公益性の認定に支障はないということを議論する必要があるのではないか。
- 非営利法人のひとつの類型として財産拠出型の法人を考えるとのことだが、一般非営利法人に無利息の劣後出資債券の発行を認め、ある程度法人が返還するという債務性を残す形での資金調達の方法を認めれば、新たな類型を作る必要はないのではないか。
- 非営利法人の活動を応援するために財産を拠出する者は、その拠出が劣後債と位置付けられることに満足しない。
- 名前が問題であるならば、「劣後出資債券という形で出資している」というネーミングで十分ではないか。
- この財産拠出をどう性格付けるかが問題。残余財産の分配を考えれば、拠出者は債権者に劣後するが、この劣後性は法人が拠出者に約束するものではなく、法律的に劣後性を保証する必要があり、そういう意味では出資に近い性格を有する。他方拠出した財産が戻ってくるだけだと考えれば債権に近い。財産拠出は出資と債権の中間的な性格を有していると言える。
- 拠出金と劣後債との違いというのは、「定款の定めるところにより」というのが入っているかどうかという点があるのではないか。
- 非営利法人の定款に定められた拠出金であれば企業は拠出できるのかもしれないが、無利息無担保で劣後する貸金を提供することはできるだろうか。
- いずれ返還する性格の資金であるならば、拠出時点で税法上の損金と認められず、拠出金に課税されてしまうのではないか。そうだとすれば、企業が拠出するインセンティブは下がってしまう。
- 企業に対し資本と言う形で出資すれば、出資者の損金に算入することはできない。この拠出金も資本的な性格を有しているのではないか。
- 財産拠出型の法人は、企業からの大口の拠出金を受けるタイプというより、個人からの小口の拠出金を数多く集めてみんなで運営していこうというタイプになると想定されることから、税法上の損金算入を求めるニーズは低いといえるのではないか。
- 出資者と出資先の関係と、債権者と債務者の関係は異なる。前者は対等な関係であり、出資者が気持ちの上で出資先を応援し元気づけるものである。
○ 公益法人の実態等に関するヒアリング調査の状況について
事務局から、資料4「公益法人の実態等に関するヒアリング調査について」について説明があり、その後、質疑が行われた。主な発言は次のとおり。
- 個別の法人からの回答の主な内容を見ると、この会議での議論の方向と一致する意見が多いようだが、違った意見もあったのか。
(← 必ずしも一致する意見ばかりではないが、内部留保については一律の基準は定めがたいとの意見や、社会監視に期待する意見など、概ねこの会議での議論の方向と一致している意見が多かった。)- 代表訴訟制度など理事への責任追求を強化する制度がこの会議において検討されているが、理事の責任について意見はあったか。
(← あまりなかった。)- 代表訴訟制度は必要だと思うが、実際の制度設計は難しい。公益法人の場合、低額あるいは無報酬で役員に就任されている方が多いが、そういう者に対する損害賠償請求等を無制限に認めてよいのかという問題がある。株式会社の役員につき、その報酬でもって損害賠償請求を制限していることとのバランスを考える必要があるかもしれない。
(文責:内閣官房公益法人制度改革推進担当)