1.日時:平成16年5月26日(水)10:00〜12:30
2.場所:虎ノ門第10森ビル3階会議室
3.有識者会議出席者
(座 長) 福原義春((株)資生堂名誉会長) (座長代理) 能見善久(東京大学教授)
石川睦夫((財)住友財団専務理事・事務局長)
勝又英子((財)日本国際交流センター常務理事・事務局長)
加藤秀樹(構想日本代表)
金子宏(東京大学名誉教授)
河野光雄(内外情報研究会会長・経済評論家)
関幸子((株)まちづくり三鷹 事業部プロジェクトグループマネジャー)
田中清((社)日本経済団体連合会常務理事)
田中弥生(東京大学助教授)
東ヶ崎邦夫((社)日本アイソトープ協会総務部長)
中田裕康(一橋大学教授)
(岩原紳作東京大学教授、宇賀克也東京大学教授は所用により欠席。)(50音順) (政府側) 堀江事務局長、西室長、長屋参事官、田中企画官、岡本企画官、野口調査官 4.議事次第
○ 公益性の考え方・判断要件のあり方(2)
5.議事概要
○ 公益性の考え方・判断要件のあり方(2)
事務局から、資料1「説明資料(公益性の考え方・判断要件のあり方)」について、説明があり、その後、討議が行われた。主な意見は次の通り。[3.判断要件のあり方 I 公益性を有すると判断する際の要件]
(1)法人の目的に係る判断要件
- 「不特定多数」という用語は、法律上では、世間での用法と異なる特殊な使われ方をしていると考えられる。稀有な難病患者に係る活動も公益に合致し、「不特定多数」に対する活動に含まれると理解すべき。
- 公益法人協会では、「不特定多数」の「多数」とは「複数」の意味であると考えている。
(2)法人の事業に係る判断要件
@ 法人の目的との関係及び事業内容の明確化について
- 非営利法人の事業内容を法律に規定された事業領域と照合させるのであれば、法律上の規定が、事業を列挙するなど相当程度明確なものになっている必要がある。法律にどの程度細かく書き込むのかということと関係する。
- フランスのように、「4Pの基準(@製品、A受益者、B価格、C公告を総合勘案して判断)」に着目している例もある。これを法律上規定するという手法も考えられるのではないか。事業列挙方式は、必ず漏れを生じる。法人の活動分野、「4Pの基準」のような事業の性格に係る原則、事業の事例等を組み合わせて法律上規定することができないか。
- 事業列挙方式は好ましくないが、さりとて何か例示しておかないと、裁量が大きくなるおそれがある。少なくとも何らかの形で公益性があるといえる事業を例示して公表することが必要。
A 営利企業として行うことが適当な事業との関係について
- 営利企業でも非営利事業分野に進出したり、非営利法人でも営利事業分野に踏み込んだりして、両者の境界が曖昧になっているのが現状。「営利企業として行うことが適当と認められる性格・内容の事業」という概念の建て方がもはや適当ではないのではないか。従って、この項目は、慎重に取り扱うべき。
- 主務官庁による許可制等を採る現行の公益法人制度では、法人が公益的な活動を行うにしても営利法人と非営利法人のどちらの形態をとるのか自分で選択できないことが問題。法人の主体的な選択・判断・行動ができるように改革すべき。営利事業か非営利事業か、営利法人で行うか非営利法人で行うかは、法人の自由な選択に任せるべき。
- 営利と非営利との境界が曖昧であっても、営利法人と非営利法人との間で、公正な市場競争を確保することも課題。非営利法人が営利企業と競争するのであれば、現行のNPO法人のような収益事業への課税がなされてしかるべきではないか。
- NPOによるマイクロクレジットの事例では、どのようなものに対してでも低利融資を行うわけではなく、銀行等の営利企業では扱わないような社会的な活動を行う者に対して融資を行っている。決して競争しているわけではない。
- 政府系金融機関の公益性についても、同様の議論があり、状況により変わり得る。非営利法人による営利活動に対し、営利法人との住み分けという観点からどのような制約をつけるか、ということが問題。
- 営利企業が市場原理で行動する以上、非営利法人になって活動した方が得だと判断すれば、非営利法人という形態で参入してくるもの。介護分野等がそう。非営利法人と営利企業とが競争する分野だからといって、即課税すべきということにはならないのではないか。
- 現在の実態からすれば、非営利法人が営利法人と住み分けるための制約は緩やかにしておき、間口を拡げてもいいが、例えば5年後に見直すこととすべき。
- 非営利法人が税の優遇を受けつつ営利法人と競合したとしても構わないのではないか。その活動には必要な制約が課される非営利法人と、税の優遇はないが自由に活動できる営利企業とでどちらの形態を選ぶかは、法人の自由な選択とすることでよいのではないか。
- 問題点は、@非営利法人が税というコストを負担せずに営利企業と競争し、民業を圧迫すること、A営利企業と比して非営利法人に求めるべきガバナンスの程度、B非営利法人が営利を追求し過ぎて非営利性に反してしまうおそれがあること。これらの問題点を踏まえつつ、非営利法人による公益的活動のメリットとの比較をして検討すべき。
- 収益事業については、やはり何らかの合理的な制約が必要となるのではないか。公益活動のためのものだという限定を付すべき。収益事業に熱を入れすぎるのはよくない。
- 公益活動に必要な活動資金を調達するための収益事業と、出版等のようにそれ自体が営利的な活動と競合するような公益活動とは、分けて考えるべき。
B 公益的な事業の規模について
- 公益的な事業・収益的な事業・共益的な事業の区分は実務上困難。公益的な事業が全体の活動の一定割合を占めていることの数値的な把握についても、数値のみで機械的に判断することは困難。しかしながら、ある程度の数値的な判断の目安は必要ではないか。
- 公益的な事業費の割合というのは、例えば、物品販売を収益事業として行うような場合、仕入れ額等の関係から、地道な公益活動に要する費用に比べて額が大きく出てしまい、そうした数値では割り切れない実態がある。数値的な把握は、事業に従事する実員数や活動時間で把握するなどの工夫が必要ではないか。
- 公益事業と収益事業とを区分するのは、現行制度でも行っている。しかし、公益事業と共益事業との区分は現実に困難。現行の指導監督基準でも区分していない。
- 公益活動と収益活動との割合がどうあるべきかは、本来法人が自分で決めるべきこと。現行の指導監督基準は、公益法人に対する税制特例措置との関係で決めているのだと考えられる。公益法人として、自らの自主・自律性と税制上の優遇措置と、どちらを選択するのか。また、我が国では寄付文化が根付いておらず、小規模の非営利法人は活動資金を収益事業に頼らざるを得ない事情があり、現行の指導監督基準にある「2分の1以上」という基準は、厳しいのではないか。いずれにせよ、法人の主体的判断に任せるべきなのか、様々な法人の公益事業の適正を確保するために基準を設けるべきなのか、悩ましい。
- 公益法人という看板のためには、やはり「2分の1以上」が公益事業という基準が必要。ただ、公益的な事業が全体の活動に占める割合をどのように計るかが難しい。
- 公益的な活動をしている非営利法人に対する寄付税制のあり方についても、検討してもらう必要がある。
- 我が国に寄付についての社会環境を整備していくべき。そのためには、個人寄付に係る税制上の優遇措置を拡大することが必要で、政府税制調査会で検討してもらうよう提案すべき。
C 収益的な事業の業種について
- 高利の融資事業等指導監督基準等に挙げられている事業は、社会通念上、公益性を有する非営利法人の事業としてはやはり不適当ではないか。
- 公益性を有する法人の事業の業種の制限を法制度に組み込むことは難しいだろう。業種の制限は情報開示による社会監視で担保すべきではないか。また、社会的な常識に反する事業を行う法人には寄付が集まらず、いずれ活動できなくなるのではないか。
D 公益的な事業以外の事業に伴う利益の公益的な事業への使用について
- 少額の蓄積では事業ができないために、当面収益事業を拡張せざるを得ないこともあるのだから、利益の使用は年毎に評価するのではなく、一定の期間をとって判断する必要がある。その一方でいつの間にか収益事業ばかり行う法人になってもいけない。公益性を有する法人として何のために収益事業を行うかという趣旨を踏み外さない限り、ある程度の余裕は見てよい。
- 資金が増加しないと公益的な事業の拡大は望めないのだから、収益事業の拡大再生産はある意味当然。とはいえ、収益事業の拡大に専念し公益事業を拡大しないのも不適当であり、要はバランスをいかにとるか。また、短期間の利益の使用を見るだけで判断を行うのは問題だろう。
- 従来は行政側が考える基準でやってきたが、今後行政の手を離れてやっていくというなら、なるべく幅が広く自由度の高いやり方がよい。特に今後数年間団塊の世代が定年を迎え、力量・意欲の高い人材が大量に民間非営利活動に参加してくる可能性があるのだから、彼らが入りやすい受け皿を用意すべき。営利でも非営利でも実際やることは同じであり、分けて考えない方がよい。
- 営利事業であろうが非営利事業であろうが同じ手続きでスタートできることが大事であり、そのためには非営利法人を準則で設立できることが必要。しかし、その上で公益性を有する法人については、法律で税制上の優遇措置等があるとなると、どうしても行政との関わりが出てくる。非営利法人は誰でも設立できるということと、その上で公益性を判断することは必要だが、別の制度としてもう一つ公益法人類型を作ることは避けないといけない。
- 寄付税制の必要性は否定しないが、税金の優遇により寄付文化が発展するほど簡単に世の中が変わることはないのではないか。
- 寄付に対する税制上の優遇措置ができたからといってすぐに寄付が拡大することにはならないだろうが、やはり仕組みを用意することが必要。仕組みがあれば法人が寄付を集める際、こういう活動に寄付をすれば課税前の所得から控除できることをアピールでき、次第に寄付の文化が醸成されるのではないか。制度を活用するかどうかは制度を作ることとは異なる次元の問題。
- 事業に係る判断要件の捉え方については、@公益的な事業の規模の基準等を要件として出すべきか、A具体的な基準をどのくらいに算定するか、B基準を満たしているかどうかをどう担保するかという3種類の問題がある。基準をできるだけに緩やかにというこの会議の大勢には賛成するが、この3種のうちのどのレベルの議論なのかを明確にする必要があり、何も決まらないままに税調にお任せするのはよくない。むしろ、数値は別としてもこういう判断要件は採用した方がよいだろうというように、合意できることについては合意すべき。基準は緩やかであってよいが、だからといって何も決めなくてよいというのではなく、ある程度の数値があった方がよい。基準の担保方法として情報開示で行うことには賛成だが、全く白紙で自由にやるとかえって改革の目的に反することになる。
- 情報開示という言葉は様々な場面で使われるが、法人が情報を役所に提出することで終りとなるのではなく、世間に対して開示し、なおかつ、その情報に対する担当官署の反応も開示される仕組みでなければいけない。
- 情報公開で担保する考え方は大切だが、それは必要だが十分条件ではない。やはり一定の基準を設ける必要があるのではないか。
[3.判断要件のあり方 II 公益性が維持・確保されるための要件]
(1)法人の目的に係る判断要件
- 目的が達成されたかどうかを活動実績から検証するには大変なコストと時間を要し、実際的ではない。定性的に目的に適う活動実績があったどうかは捕捉できないだろう。
(← 法人の活動全体を捉えて、法人の定款等に記載した目的と整合しているか確認することは考え方としてある。具体的な判断の物差しを設けるかどうかは別の問題。)- 適切に計画・予算が作成され、それに基づき活動が行われたかということのチェックは何らかの段階で必要。
(2)法人の事業に係る判断要件
@ 活動実績を踏まえた判断について
- 実績は設立事後にチェックすべき。また事後で実績を見たときに、適正に活動していない法人に対しどのように対処するか考えておく必要がある。
- 一定の基準を設ける必要があると主張している理由は、活動を制約しようというのではなく、基準を定めておかないと税務行政庁が課税・非課税を判断するときに裁量が入るという懸念があるため。
- 法令上規律を設けて担保することになると、法人にとってはプレッシャーになるし、一定の人員を投入する必要が生じてしまう。他方、情報開示を通じた社会監視では、監視する人が必要になる。活動実績のフォローは法人が必ず行うものだから、法令上規律を設ける必要はないのではないか。
- 現行の公益法人は予算に準拠した活動を行うよう指導されており、活動資金は事業の前年度に全て確保されていることが求められている。しかし、民間非営利活動は確実に資金を確保した上で行っているのではなく、また突発的にどうしてもやらなければならない事業も生じ、多くの法人はこうした指導に従って予算を作成するが、実際には予算と決算が乖離してしまう。予算や事業計画を作成しないまま行うのは公益活動とはいえないが、予算と実態が乖離したときに、どのような情報公開ができるか、それを見た世間が納得するか考える必要がある。
- 情報開示項目のモデルを新たな判断主体が示すべき。開示してない団体名を公表するというやり方もあるのではないか。
- 公益的な活動を行っているかどうかという問題とガバナンスの問題が結びついている。行政は事後的に活動の中身を見ることができないから、事前にガバナンスの方で形式的に判断しようということなのだろう。ガバナンスをしっかりすることは当然必要だが、新たな制度ではかなりの程度活動実績を見ていく方向に比重を移すことが求められているのではないか。
A 受入寄付金について
- パブリックサポートテストはインプットの面から公益性を見ているが、支出面から公益性を捉えることも一つの方策。パブリックサポートテストは一つの考え方であるが、いくつかの基準の選択肢の中の一つという位置づけをはっきりさせるべき。
- 大口寄付によっている活動はパブリックという側面が消えてしまっているだろう。多くの人からサポートされていることを求めるのは難しいのではないか。
- 日本では公益性を担保するのに受入寄付金がパブリックでなければならないという理屈が不明。現実に企業財団は設立母体からの寄付がほぼ唯一である。
- 公益性を前提に寄付が行われるということが一般的でない以上、公益性の担保と寄付を一緒に論じるのはナンセンス。寄付金控除の拡大などにより寄付に対する社会的な認知が得られてから、実績を踏まえてパブリックサポートテストの導入が検討されるべき。
- 寄付金の話を切り離すと、手続き面から法人免税と寄付免税を二段階で申請するということになりはしないか。
- 何らかの数値基準は必要だが、実態に合う基準を考える際パブリックサポートテストが唯一のものかが論点。
- 現行のパブリックサポートテストはパブリックという部分にあまり重点を置いていないのではないか。
(← 現行の認定NPO制度では、一者からの寄付が全体の5%を超える部分についてはパブリックサポートテストの算定から除外している。)- 当面、あまりパブリックの部分に重点を置いて考えるべきではないのではないか。
- パブリックサポートテストは選択的な要件の一つとしてはどうか。また、実際に携わるものから見れば一人からお金をもらっている方が楽。多数の人からお金を集めるとなるとそれだけで大変で、本来の活動には入れないことにもなりかねない。パブリックサポートテストによって判断できるところもあるだろうが、一般的に数多くの人からのサポートを求めるというのは現実的ではない。
- 法人税制や寄付税制については、既存の制度を前提として議論したり実現可能性を論じたりすべきでなく、あるべき姿を整理して提言していくことが重要。寄付税制は3階ということについては断固反対。
- パブリックサポートテストに際して、会費も寄付と見なせばやり易くなるかもしれない。
- アメリカではパブリックサポートテストだけでなく多面的に見て公益性を判断している。今の日本では、アウトプットから見た公益性の判断のほうが現実的ではないか。役員が適切な運営をしているかどうかといったガバナンスの方が重要。
- パブリックサポートテストをパスしたNPO法人は現在24団体にとどまる。使い勝手が悪く期待通りには機能していないという現実は直視すべき。パブリックサポートテストは一つの選択肢であり、この会議で代案を出していければよいのではないか。
[3.判断要件のあり方 III その他]
- ある段階では活動実績を求めることがあっても、入口段階では活動実績を求めないという立場を再度明らかにしたい。
- どのくらいの期間をおいてから活動実績を求めるかという点については意見が異なるところもあり、今後更に検討すべき。
(文責:内閣官房公益法人制度改革推進担当)