平成14年4月

公益法人制度の抜本的改革の視点と課題


  1. 改革の目的

    (1)民間非営利活動を促進する経済・社会システムの確立
     我が国においては、個人の価値観が多様化し、社会のニーズが多岐にわたってきている。また、地域を基盤としたコミュニティは、大都市への人口集中等により、その役割が低下しつつある。その一方で、阪神・淡路大震災等を契機に、民間非営利活動に対する関心が高まり、個人の意識の上で、自ら社会の構築に参加し、自発的に活動していこうとの傾向が強くなっている。
     国民に対して様々なサービスを提供する主体は、行政部門、営利部門、非営利部門の3つに大別することができる。このうち、行政部門の活動は法律・予算に基づくことが条件となっており、公平・公正を重んじるため、画一的なものとなりがちであり、機動的な対応は難しい面がある。また、営利部門の活動は収益をあげることが前提となるため、採算の見込みがない分野に対応することは基本的にない。すなわち、行政部門、営利部門だけでは様々なニーズに対応することがより困難な状況になっている。
     非営利部門は、行政部門や営利部門が持つこのような制約が少ないため、一定の分野については、柔軟かつ機動的な活動を展開することが可能である。
     このような特性を持つ非営利部門は、多様なサービスを提供し、行政部門や営利部門では満たすことのできない社会のニーズを満たし、その結果として社会に安定や活力をもたらす。
     したがって、個人の価値観の多様化、政府の役割の限界等が指摘される現在、民間非営利活動を促進していくことは、21世紀の我が国社会を活力に満ちた社会として維持していく上で非常に重要である。
     国際的にみても、特に先進各国においては、環境問題への取組みにみられるように、NGOをはじめとした民間非営利活動と行政との連携が不可欠なものとなっている。
     民間非営利活動の促進は、「官民の役割分担」「機動的な公共サービスの実現」「国民の主体性、自己責任の尊重」といった観点から「小さな政府」の実現にも資するものである。

    (2)公益法人制度の見直しの重要性
     (1)で指摘したように、今後の我が国社会において民間非営利活動が果たすべき役割はますます重要となるが、民法第34条(※)に基づく公益法人は、これらの活動を担う主体として、重要な役割を担っているといえる。
     他方、公益法人に関しては、公益事業とはいえないような事務・事業を実施している法人があるのではないか、理事が不適切な運営をしている法人があるのではないか、といったその運営の在り方についての批判がしばしば見受けられ、制度の廃止も含めて検討すべきではないかとの意見もある。
     この背景としては、公益法人制度が民法制定以来100年以上にわたり基本的な見直しが行われてこなかったがゆえに、時代の流れに対応しきれず、いわば「制度疲労」を起こしているのではないかとの指摘がある。これは、営利法人の基本法規である商法が、コーポレートガバナンスの観点から近年、数次にわたる大幅な見直しが行われていることとは対照的であり、公益法人制度について抜本的な見直しを行い、真に時代の要請に応え得る制度として再構築することが必要であろう。

     行政改革推進事務局においては、これらを踏まえ、公益法人制度についての問題意識を以下のように整理し、平成13年7月、政府行政改革推進本部に報告した。
     @「公益」の範囲、「公益性」の判断
     A公益法人の設立許可
     B主務官庁の指導監督
     C公益法人の機関・組織、ガバナンス・規律の在り方、監査等
     D公益法人のディスクロージャー
     E公益法人に対する税制
     F公益法人から中間法人・営利法人への移行
     これらの視点は、公益法人制度が抱える問題を整理、解決していく上で必須のものと考えられるが、その際には根本に立ち返り、「ゼロベースで見直す」ことが重要である。
     なお、先に述べたような公益法人の「制度疲労」を埋め合わせる意味もあり、民法の特別法として特定非営利活動促進法(以下「NPO法」という。)や中間法人法が整備されたが、この結果、かえって制度が複雑になっている面もあるのではないかとの指摘もある。
     非営利公益活動を促進する目的で制定されたNPO法は、平成10年 12月1日に施行されたが、特定非営利活動法人(以下「NPO法人」という。)は人の集まりに着目した社団であり、またその特定非営利活動の分野として規定する12分野は、実際上公益法人の活動分野の大部分をカバーしているとの指摘もある。
     また、現在ある約2万6千の公益法人のうち、約4千の公益法人(平成12年10月1日現在)が「互助・共済団体等」という「共益的」性質を持つ法人として整理されている(平成13年度公益法人に関する年次報告)。これは、非営利かつ共益を主たる目的とする活動を行う場合に、平成14年4月1日から施行される中間法人制度が創設されるまではその受け皿となる制度がなく公益法人となっているためと考えられる。そして中間法人法施行後は、非営利共益的活動を行う法人が公益法人と中間法人という2つの制度に混在するともみられるような状況も予想される。
     さらに、NPO法及び中間法人法の国会審議の際の附帯決議(別紙1参照)において、公益法人制度の見直しについても言及されている。
     これらを踏まえれば、今後の検討に当たっては、公益を目的とする法人と共益を目的とする法人との性格の相違に留意しつつ、NPO法人制度、中間法人制度との比較検討・整理(別紙2参照)を行うことも必須である。

    ※ (公益法人)
     第34条 祭祀、宗教、慈善、学術、技芸其他公益ニ関スル社
     団又ハ財団ニシテ営利ヲ目的トセサルモノハ主務官庁ノ許
     可ヲ得テ之ヲ法人ト為スコトヲ得

  2. 公益法人制度改革の方向
     1で記述したように、平成13年7月、当事務局は公益法人制度の見直しの視点を7項目にわたって指摘し取りまとめた。以下は、それらについての現状及び見直しに当たっての留意点であり、これらを踏まえ、また、諸外国の例も参照しつつ、改革を積極的に進めていくことが必要である。
     なお、見直しに当たっての基本理念は、法人の設立に当たっての要件やその判断基準、また、法人の運営等に当たってのその拠るべき規律を明確化した上、法人の設立、運営等についての行政の関与の在り方を見直し、法人の適正かつ自律的な活動を可能とするということにある。

    (1)公益法人の設立等
     公益法人は、主務官庁がその「公益性」を判断し許可を与えることによって設立される。許可を与えるかどうかの判断基準については、法令上明確な規定がなく、主務官庁の自由裁量に委ねられていると解されている。
     このような仕組みを採ってきた理由は、民法制定当時、自由設立では、有益な事業を奨励するために制度を設けたのに、これを悪用される恐れがあること、また、公益法人は社員の利益のためでなく公益を目的とするので、社員自身のみの監督では不十分であることから、特に国の関与が必要であると考えられたためと思われる。
     しかし今日、民法制定当時と比較して社会の構造は大きく変化し、また個人の価値観も変化し多様化したため、「公益」という言葉が指し示す意味・内容は極めて多様なものとなっている。そのような中にあって、法人設立の決め手となる「公益性」の判断を官庁のみが自由裁量で行うという仕組みは、必ずしも今日の時代にふさわしいものとはいえない。
     また、「主務官庁の自由裁量」による設立許可の場合、設立が許可されるか否かの予測可能性が低く、公益活動を新たに始めようとする者の意欲をそいでしまうおそれがある。民間の公益活動を促進する観点からは、公益性の判断基準を含め、設立に当たっての判断基準を明確化し公表すること、設立手続を可能な限り容易にすることが必要ではないか。
     すなわち、公益法人の設立の在り方については、主務官庁の自由裁量となっている「公益性」の判断及び許可主義の在り方の原点に立ち返って見直していく方向で検討していくことが必要と考える。

    (2)主務官庁による指導監督
     主務官庁による指導監督については、公益法人の設立において許可主義を採用していることもあり、主務官庁は包括的な指導監督権限を保持している。しかし反面において、包括的な指導監督権限は行政の公益法人に対する安易な介入を招きかねないことにもなる。
     許可主義を根本から見直し、行政の関与を必要最小限とすることに加えて、本来、公益法人が民間の主体的活動であることを踏まえその自律性を確保する観点から、指導監督についても限定的かつ明瞭な基準に基づくものとしていく方向で検討してはどうか。
     また、現行法上、指導監督命令に違反した場合には公益法人の設立許可取消しさえも可能であるものの、実際には機能せず、法人の不適正な業務運営の改善が図られていないのではないかとの指摘もあることも踏まえ、より実効性をもたせるため、公益法人が遵守すべき事項について法令等に明確に規定することも検討すべきではないか。

    (3)公益法人のガバナンス等
     およそ組織である以上、その運営に当たってガバナンスを重視すべきことは当然であるが、現在の公益法人のガバナンスに関しては、財団法人について評議員(会)の設置が規定されていないこと、監事が必置機関でないこと、というように法律上、必ずしも十分に規定されているわけではない。
     これは、公益法人の活動については、主務官庁の指導監督によって適正さを確保するという前提があったものと考えられる。
     しかしながら、本来、公益法人が行う活動は広く国民一般を対象としたものであることや、行政の関与を必要最小限とする方向で検討することも踏まえ、公益法人の活動の適切性、国民からの信頼を確保するといった時代の要請に応え得るあるべきガバナンスとはどのようなものか、について考えていかねばならない。その際には、自己責任原則を第一義としつつ、一方で国民、行政が関与すべき範囲、領域といったことも考慮すべきであろう。
     なお、見直しに当たっては、ほかの法人制度におけるガバナンスの在り方との比較(別紙3参照)も参考になるものと思われる。

    (4)公益法人のディスクロージャー(情報開示)
     民法には、公益法人のディスクロージャーについて明示的な規定は特に置かれておらず、従来「公益法人の設立許可及び指導監督基準」(平成8年9月20日閣議決定)に従って行われてきたものである。
     しかしながら、現在の公益法人がその「公益性」ゆえに設立され、さらには税制上の優遇措置も付与されていることを考えれば、公益法人は自らの活動について社会に対し積極的にディスクロージャーをしていくことは当然の責務ともいえる。ディスクロージャーの充実については、積極的な評価が行われるべきであり、必要に応じ法的義務を課すことも含めて検討してはどうか。
     検討に当たっては、行政の関与を必要最小限とする方向で検討することも踏まえ、なぜ、誰のためにどのような情報をどのように開示していく必要があるのか、という点について留意する必要がある。ディスクロージャーについては、既に「インターネットによる公益法人のディスクロージャーについて」(平成13年8月28日申合せ)により、指導監督の一環として実施に移しているが、その効果・反応等を検証することも参考となろう。また、ほかの法人制度におけるディスクロージャーの在り方も参考にすべきであろう。

    (5)公益法人の税制
     公益法人については、@営利を目的としない公益に資する活動であること、A主務官庁の設立許可及び指導監督があること、B解散時の残余財産が構成員に帰属しないこと、といった性格に着目し、一律に税制上の優遇措置が認められてきたところである(別紙4参照)。
     しかしながら、法人の事業目的とする公益性の概念が時代の変遷とともに変わったことにより営利法人と同様の事業活動を行っているような場合があるのではないか、公益法人の収益事業は法人の運営基盤や公益活動を行うための収入の確保が本来の趣旨であるにもかかわらず収益事業のウェイトが高くなっている場合もあるのではないか、との指摘がある。これらは、そもそも公益法人の在り方として考えるべきものではあるが、これらの法人がそのまま公益法人であり続ければ、引き続き課税の範囲や税率などの面で優遇を受けることになり、営利法人との公平性からみて問題であるとの批判がある。
     また共益的な法人については、中間法人法制定までその受け皿となる制度がなかったこと等もあり、本来税制上の優遇措置を受けるにふさわしくない非公益的な活動をしている法人にまでその適用が及ぶこととなっているのではないかとの指摘がある。
     このほか、法人に対して寄附等の形で資金提供を行う者に対する税制上の取扱いについて見直してはどうかとの意見もある。
     法人設立の許可主義を根本的に見直すことと併せ、法人格の取得と税制上の優遇措置の在り方についても検討する必要があるのではないか。

    (6)公益法人から中間法人、営利法人への移行(転換)
     これまで述べたとおり、現在の公益法人の中には、中間法人的なもの、営利法人的なものも相当数あるとされている。
     中間法人については、平成14年4月からの法律施行であるため公益法人からの移行(転換)の事例はなく、また、営利法人と競合する事業を担っているとされる公益法人については、営利法人への移行(転換)の方法として「公益法人の営利法人等への転換に関する指針」(平成10年12月4日申合せ)が示されているが、この指針に基づいて、平成12年度末までの間に実際に営利転換が行われたのは8法人にとどまっている。
     移行(転換)に当たっては、その保有資産の取扱い、特に残余財産の分配をはじめ、様々な問題があり、現状のままでは公益法人から中間法人や営利法人への移行(転換)は容易ではないが、公益法人とされるものを純化するという観点からは、移行(転換)が求められる理由を踏まえつつ、法制面の措置を検討し、併せてそれに応じた税制上の取扱いも検討する必要があるのではないか。

    (7)行政委託型公益法人について
     いわゆる行政委託型公益法人については、「行政改革大綱」(平成12年12月1日閣議決定)を受けた「公益法人に対する行政の関与の在り方の改革実施計画」(平成14年3月29日閣議決定)及び同計画に盛り込まれた「公益法人に対する国の関与等を透明化・合理化するための措置」により、一定の透明性、効率性、厳格性が確保される。
     しかしながら、これらの法人については、民間法人である公益法人が行政代行的機能を担うこと、特に行政代行を本来の目的とすることは問題があるのではないか、営利法人等との間に不公平があるのではないか、公務員の再就職先として安易に用いられているのではないかなどの指摘がこれまでされてきたことも踏まえ、公益法人制度の抜本的改革の中で、その在り方を考えていく必要があるのではないか。

  3. 改革に当たっての取組み方
     改革の目的にも示したとおり、民間非営利活動を促進する上で、公益法人制度の抜本的見直しは必要不可欠であり、かつ早急に進めることが肝要である。
     公益法人制度は、民法にその根拠を置くが、公益法人の活動分野はほとんどすべての行政領域に及ぶものであり、また経済社会や国民生活にとっても大きな影響を有している。このため、「公益法人制度の抜本的改革に向けた取組みについて」(平成14年3月29日閣議決定)(別紙5参照)に従い、全政府的課題として取り組むことが必要である。