採用試験の抜本改革の在り方


平成14年8月2日
行政改革推進本部決定

1 採用全般についての基本的考え方

(1)公務員制度改革の理念と採用

@ 今回の公務員制度改革は、これまでの公務員自身の意識、行動様式を大きく変革し、行政のパフォーマンスを飛躍的に向上させ、真に国民本位の行政の実現を図ろうとするものである。そのためには、公務員がその能力を最大限発揮し得る環境を整備するとともに、行政ニーズに応じた質の高い人材を確保していくことが重要である。

A 公務部門における人材の確保については、従来の人事制度の下では、全体として新規学卒者を採用・内部育成し、その人的資源の範囲内で当面する行政課題に対応する傾向が強く、行政ニーズの変化に対し、行政運営が機動的に対応できていないことの一因となっている。今後は、公務部内の人的資源を最大限に活用することに加え、有為な人材を外部からも積極的に確保していく行政課題・仕事本位の人事管理へと発想を転換していくことが必要である。このため、官民交流の抜本的拡充、公募制の積極的活用などを行っていくとともに、新規学卒者の採用に当たっても、採用後の計画的な育成を通じて、将来直面する行政課題に的確に対応し得る高いポテンシャルを有する多様な人材を確保していくことが重要である。

B 新しい人事制度においては、採用後の新規学卒者の育成に当たり、個人個人の能力や意欲等を踏まえた計画的な人材育成の仕組みを導入することとしている。これに併せ、いわゆるキャリアシステムを見直すとともに、事務官・技官等の別を廃止するなど、採用時の試験の種類・区分や採用年次等に基づいた硬直的な人事管理を改め、すべての職員について、真に能力本位で適材適所の任用や能力・実績に応じた処遇を図ることとしている。これら採用後の人材育成・適材適所の人事管理を進めていくことで、機動的に行政ニーズに応じた質の高い人材を確保し、活用することが期待される。
 
(2)内閣の主体的な取組の必要性

 職員の採用は、各府省の実際の行政ニーズに応じた有為な人材を確保していくという観点から行うべきものであり、まさに国民に対して行政運営の責任を担う内閣が、その行政運営の一環として、一層主体的に取り組んでいくことが重要である。
 このため、採用試験制度の企画立案については、第三者機関である人事院が包括的に行うこととしている現行制度を改め、内閣自らが行うこととする。また、採用全般にわたって、内閣が一層主体的に責任を持って取り組んでいく仕組みを構築していくことなどが必要である。
 
(3)採用に際しての中立性・公正性の確保

 現行の採用制度においては、公務能率の向上、人事行政の公正の確保等の観点から、採用全般に係る成績主義の原則及び採用試験に係る公開平等の原則に従うことが要請されているなど、中立性・公正性の確保が求められている。
 新しい枠組みの下においては、内閣が中立性・公正性の確保のために従来以上に責任を持って取り組むとともに、採用における中立性・公正性を制度的に担保するため、人事院によるチェックが適切に働く仕組みとすることが必要である。

2 採用試験をめぐる現状と問題点

 国家公務員の採用試験をめぐる現状と問題点について、有識者や若手職員等に対してヒアリングを行ったところ、次のような指摘がみられたところであり、採用試験の見直しに当たって十分留意する必要がある。

(1)人材マーケットの変化

 学生の就職意識の変化としては、人材獲得競争が激化する中で、I種・II種を中心にこれまで国家公務員を志望していた層の学生が外資系企業を始め民間企業や地方公共団体への就職、資格取得等を選択する傾向にあり、この背景には国家公務員の魅力が低下してきていることもあるのではないかとの指摘がある。
 人材供給構造の変化としては、法科大学院等の整備に伴い、資格取得等と結びついたより高度な専門的能力を有した人材が多数輩出されることが予想される。また、雇用の流動化が進展し、中途採用マーケットの拡大が予想されるともに、行政の複雑・高度化に伴い、外部から質の高い人材を公務に採用するニーズが高まることが予想される。
 民間企業の採用活動については、就職協定の廃止以降、その時期が大幅に早期化しており、学生の就職活動に多大な影響を与えている。
 
(2)採用試験実施上の問題点

 試験内容については、早期から予備校に通学するなど準備に相当の労力を要する試験であるとの認識が事務系の学生を中心に強く見られる。また、筆記試験の内容については知識偏重との指摘もあり、各府省の採用ニーズを踏まえた見直しが行われる必要がある。
 人事院が行う試験と各府省が行う採用との関係については、現在は試験の最終合格者数を絞り込み過ぎており、多様な人材を求める各府省の採用ニーズが十分に満たされていないという問題が生じている。また、民間企業との競合が激しくなる中で早期に採用活動を行いたい各府省の意向などもあり、試験の最終合格発表前に行われている官庁訪問において、各府省は事実上の採用面接を行っている実態にあるが、この結果、各府省が人物評価に基づき採用を内々定した者が最終合格せず採用に至らないケースが、I種事務系を中心に生じている。
 官庁訪問については、各府省の競争の下に、短い期間の中で学生が過度に拘束されている等の指摘もあるため、学生及び各府省とも納得できる選択が行われるよう一層の工夫が必要である。また、官庁訪問に関する情報の周知が不十分であるとの指摘がなされていることなどへの対応が必要である。
 日程については、民間企業の採用日程との乖離が拡大し、民間企業との併願は難しくなっているとの指摘がある一方、日程を早めても民間企業等もそれに対応して更なる早期化を図ることになるため、日程の早期化を行っても問題の解決にはならないとの指摘もある。

3 採用試験見直しの方向性

(1)採用についての考え方

@ 採用については、行政ニーズに応じた人材を確保するという観点から、各府省による総合的な人物評価をより重視した形とする。その際、各府省ごとに行政分野に応じて必要とされる人材が必ずしも同一ではないこと、また、一括採用では特定の行政分野に携わることに意欲を有する有為な人材が確保できないと考えられることなどから、採用を行う主体については引き続き各府省とする。なお、このような採用の在り方が、いわゆる縦割り行政の弊害につながることがないよう、府省間の人事交流の一層の推進や国家戦略スタッフの活用など内閣及び各府省において適切な人事マネジメントに努めることが重要である。

A 行政ニーズに応じてどのように人材の育成・活用を図っていくかという観点に照らして、各府省が主体的に責任を持って人材確保を行うことが重要であることから、人事院が各府省統一的に実施する試験は、各府省の行う人物評価の対象となる一定規模の候補者を公務員として求められる一定の能力・適性に基づき選抜するためのものとし、その合格者の中から、各府省が総合的な人物評価に基づき採用を行うものとする。これに伴い、人事院が実施する試験の高得点順に採用することを原則とする現行の提示制度は廃止する。なお、この際、試験内容について、知識偏重であるとの指摘などを踏まえ、改善を図ることとする。
 また、現在、人事院が行う試験の一環として行われている人物試験については、合否に与える影響が過大ではないかとの指摘や、各府省の行う人物評価と重複しているとの指摘がある。このため、各府省の総合的な人物評価との関係を踏まえ、人物試験の在り方について、見直しを行う。なお、人物試験については、全ての受験者に実施することは困難であり、一定の絞込みを行った上で実施せざるを得ないと考えられることから、試験日程全体の短縮のためには、相応の工夫が必要となることを十分留意しつつ、効率的な実施方法について具体的に検討する必要がある。

B 各府省が行う総合的な人物評価については、公務員の採用に対する国民の信頼を損なうことがないよう、例えば地方の学生等十分に情報を取りにくい学生に対して採用関係情報の開示を適切に行うための仕組みを整備することなども含め、透明性や公正性の確保を図ることとし、各府省の主体性を損なうことのないよう留意しつつ、内閣において一定のルールを設定することとする。内閣が定めるルールにおいては、申込期間、面接時期及び面接結果の発表時期等の採用情報の周知など透明性の確保、性別等による不当な差別的取扱いの禁止、複数の者による評価や評価基準の設定など公正性の確保を各府省に求めるものとする。
 
(2)日程等

 人事院の行う試験日程については、行政ニーズに応じて各府省が主体的に採用を行う上で重要なものであることを踏まえ、民間企業の採用活動時期、各府省の総合的な人物評価を行う期間の十分な確保、志望者の選択機会の確保、試験の実施技術上の要請等を考慮して、内閣が適切に時期を設定できるようにする。
 また、試験日程については、受験者の立場に十分配慮して、合格発表の後に各府省の総合的な人物評価が行われるよう早期化・短縮化の方向で見直す。その際、司法試験、地方公務員試験等の民間企業以外の試験の実施時期や大学等の学事日程も考慮することとする。なお、受験可能年齢の在り方についても検討を行う。
 
(3)人事院が実施する試験の種類

 人事院が実施する試験の種類については、大卒・高卒の別に応じ、また、幹部候補職員を計画的に育成する必要があるとの観点から、I種・II種・III種相当の試験とする。なお、「公務員制度改革大綱」(平成13年12月25日閣議決定)では、本府省幹部候補職員を計画的に育成する仕組みを導入することとしているが、この中では現行のキャリアシステムの弊害を是正するため、採用後はI種採用職員について厳正な評価を行うとともに、II種・III種採用職員についても集中育成の対象としての道を開くことなどにより、採用試験の種類にとらわれない能力重視の人事管理を推進することとしている。このような取組によって入省時における採用試験の種類がその後の人事管理において絶対的なものとならないよう、内閣及び各府省を挙げて適正な運用を図ることとする。
 
(4)人事院が実施する試験の合格者数

 人事院が実施する試験の合格者数については、行政ニーズに応じて各府省が主体的に採用を行う上で重要なものであることを踏まえ、内閣が適切な合格者数の規模を決定できるようにする。その決定に当たっては、より多数の候補者の中から採用ができるよう、現在よりも合格者数を増加させることとするが、各府省が合格者に対して適切に人物評価を行い得る適正な規模とするという観点に配慮することとする。その際、I種試験については、平成14年度及び15年度の状況を踏まえつつ、引き続き検討することとし、II種・III種試験については、地方公務員試験の動向や高校生の就職活動の慣行である一人一社制の見直しの動向などを踏まえて検討する。
 合格者数を増加させることにより、情実採用につながる懸念があるとの指摘や、地方在住者や私立大学出身者が不利になるのではないかとの指摘などに対しては、受験者に与える影響等について十分考慮した上で、各府省の総合的な人物評価に対する透明性や公正性の確保のための一定のルールの設定及びその遵守の徹底などを通じ、内閣及び各府省が自らを厳しく律することにより応えることとする。
 なお、「公務員制度改革大綱」においては、平成15年度のI種試験から、合格者数を採用予定数の概ね4倍程度を目途に増加させるとともに、各府省が合格発表後に採用面接を十分に行い得るよう試験のスケジュールを見直すこととされているところであり、その実施を内閣として引き続き人事院に求めることとする。

 このような採用試験の見直しと併せ、これからの行政を担う若手職員が主体的に能力向上に取り組み、多様なキャリアパスを自ら選択することなどにより、高い使命感と働きがいを持って職務を遂行できる環境を整備するなど、政府を挙げて公務の魅力向上に不断に取り組むことを通じて、公務に有為な人材を誘致していくことが肝要である。

4 大学院修了レベルの人材等への対応

(1)大学院修了レベルの人材への対応

 I種・II種技術系では大学院修了者の採用が広く行われている一方、事務系では、現在、主として大学学部卒業者が採用されているところであるが、事務系の関連分野においても、司法制度改革や大学改革の進展に伴い、法科大学院や公共政策系大学院、経営大学院など大学院レベルの実践的な人材育成への取組が進められている。
 今後、このような状況の進展や具体的成果を見定めつつ、国の行政と密接な関わりを持つ分野の一定水準以上の実践的・専門的な教育課程を修了した人材について、事務系・技術系を問わず人事院が実施する試験の種目の弾力的な取扱いや、能力に応じた適切な処遇が可能となるよう検討する。
 
(2)法科大学院創設への対応

@ 法学部は、経済学部等と並んでこれまで多くの事務系国家公務員を輩出してきたが、平成16年度に学生受入れが予定されている法科大学院は、資格取得と結びついたプロフェッショナルスクールとして我が国の高度専門職業人の養成制度の先駆けであり、学生の進路選択に大きな影響を与えると考えられる。
また、行政の在り方自体が裁量行政から事後チェック型の行政手続を重視する方向へ変わりつつある中、公務部門においても、政策の立案や立法業務等を中心に、法律に関する専門的な知見を有する人材に対するニーズも高まってきている。

A I種・II種事務系の国家公務員の採用に当たっては、学部等を卒業した段階の高いポテンシャルを有する有為な人材を引き続き獲得していくことが必要であるが、法科大学院も重要な人材ソースの一つとして捉えて対応していく必要がある。
 法科大学院においては、法学以外の幅広いバックグラウンドを有する者を積極的に受け入れるとともに、その教育プロセスを通じて、司法はもとより行政や経済等の各分野においても、法律に関する深い知識と理解の下、リーガルマインドを持って政策立案や実務に活躍できるような広い視野を持った人材を養成することが期待される。
 したがって、法科大学院の充実した教育及びその成果を確認する意味を持つ司法試験合格を前提として、これらが上記のような能力を適切に実証していると認められる場合には、法科大学院を修了した司法試験合格者については、一定の要件の下で、人事院が実施する試験の種目を免除することについて、積極的に検討を行う。

B 現在、国家公務員行政職の実務の中では、法務事務官及び内閣法制局参事官としての職務が法曹資格付与の対象となっているが、他の国家公務員の職域においても、法律案の立案や訴訟関係の事務などが広く見られ、法律的な実務経験を得ることができる。さらに、今後は、裁判外の紛争処理手続など、公務部門において、法律の知見が必要とされる職域が拡大していくと考えられるほか、今回の公務員制度改革における人材育成コースの導入等により、このような人材の計画的な育成が強化されることも期待される。
 こうした状況を踏まえ、司法試験合格者について、国家公務員の一定の実務経験を経た者に法曹資格付与の対象を拡大することについて、司法制度改革推進本部において検討することが適切である。
 また、このように司法制度改革と公務員制度改革が連携することにより、我が国の司法、行政、経済等の各分野を通じて、リーガルマインドを持って活躍する人材の流動性が高まるものと考えられる。

5 今後の進め方

 公務員制度改革の実現のためには、有為な人材を不断に採用していくことが重要であり、新たな公務員制度への移行の前後においても、採用及び採用試験制度について、一貫性・継続性を持って検討を行い、具体的改革を計画的に進めていくことが重要である。また、試験内容等の改正に当たっては、平成16年度に予定されている法科大学院等の創設等への適切な対応や、国家公務員を志す受験者への事前の周知が必要である。
 今後、採用試験に係る改革の取組を円滑に進めていくためには専門機関である人事院の協力が必要であり、その協力を得て、各府省の連携の下、内閣として速やかに具体的改革の内容を検討し、適切に実施に移すこととする。