行政委託型公益法人等改革の視点と課題


 公益法人に対する行政の関与の在り方については、行政改革大綱(平成12年12月1日閣議決定、以下、「大綱」)に示された方向に沿って、鋭意改革のための作業を進めているところである。
 このたび、行政改革推進事務局は、今後の検討の事務的な指針として、「行政委託型公益法人等改革の視点と課題」をまとめ、これに基づき、本年夏頃を目途に行政委託型公益法人等改革を具体的に進めるための評価基準等を定める「改革の基本的な考え方」(仮称)の策定に向け、作業を進めていくこととしたい。

I 公益法人に対する行政の関与に係る現状と問題点

 公益法人は非営利かつ公益的な事務・事業を行うこととされていることから、その性格上、中には行政代行的事務・事業や国から補助、委託等を受けた事務・事業を行っているものも見られ、特に近年そのような公益法人の数は増加する傾向にある。
 例えば、製品、施設等の安全性等を確保するための検査、法律に定められた資格の付与等の委託を受けたり、公益法人独自の活動に対して政策目的に沿っているとして国から大臣認定といった推薦を受けたり、国から補助金、委託費等(以下、「補助金等」)を受けて事務・事業を実施したりする公益法人である。
 これらのいわゆる「行政委託型公益法人等」と呼ばれる公益法人については、我が国の経済社会や国民生活の発展に一定の役割を果たしてきているが、一方において、以下のような問題点や批判も見られるところである。

国民の側から見れば必ずしも必要とは考えられない事務・事業を行わせるために、いわゆる官主導で公益法人を設立している場合があるのではないか
当初の目的を既に達成していたり、時代の変化により意義が失われたりしていると考えられる事務・事業について十分な見直しが行われず、国民や事業者に不要な負担を課している場合があるのではないか
委託先の選定基準が明確に定められていないこと、推薦の法的効果が一義的に明らかでないこと等により、行政と公益法人との関係が国民にとってわかりにくくなっている場合があるのではないか
公益法人に対する補助金等が本来の目的に沿って適切に使われていない場合があるのではないか
特定の公益法人を存続させるために、国民の側から見れば必ずしも必要とは考えられない事務・事業を創設して委託したり、補助金等を交付したりしている場合があるのではないか。
行政代行的事務・事業を担っていることを理由に公益法人が公務員の再就職先として必要以上に利用されている場合があるのではないか


II 改革の基本理念

 21世紀の我が国経済社会を自立的な個人を基礎とした、より自由かつ公正なものとするためには、新たな時代にふさわしい行政組織・制度への転換を目指すことが重要であり、この観点から公益法人に対する行政の関与の在り方についても積極的に改革を行っていく必要がある。このため、大綱においては、委託等、推薦等に係る事務・事業の見直し及び財政負担の縮減・合理化について行政委託型公益法人等の改革の方向性が示されたところである。
 今後、大綱に示された公益法人に係る改革を推進するに当たっては、「小さな政府」を実現し、国民の負担を軽減するとともに国民の行政に対する信頼を確保する観点から、以下の基本理念にたって検討を進めることとする。

  1. 官民の役割分担
     国の行政機能をスリム化する観点から、国が真に行うべき事務・事業は何かを厳しく見直し、既に当初の目的を達成したものや時代の変化により意義が失われているものを極力廃止すること等により、国の事務・事業の範囲を可能な限り縮小していくことが必要である。
  2. 規制改革の推進
     民間競争の促進により経済を活性化する観点から、公益法人による民業圧迫や官需独占を排除することが必要である。
  3. 財政負担の縮減・合理化
     国の事務・事業の効率的実施の観点から、公益法人に対する財政支出は必要最小限に抑えていくことが必要である。
  4. 行政の説明責任の確保及び透明性の向上
     国民に開かれた透明性の高い行政サービスを実現する観点から、国と公益法人との関係を明確化することが必要である。

III 改革の視点と課題

1 委託等、推薦等に係る事務・事業の見直し

(1)問題の所在
 国から委託等、推薦等を受けて事務・事業を行う公益法人は、第2次臨時行政調査会最終答申(昭和58年3月)において、行政事務の簡素化等を推進する観点から、民間団体への委譲や民間能力の活用について指摘がなされたこと等を背景に年々増加する傾向にあり、国の事務・事業のアウトソーシングに一定の役割を果たしていると考えられる。
 しかし、このような公益法人は、委託先の選定基準が明確に定められていないこと、公務員の再就職先として必要以上に利用される場合があること等により国との関係が不透明になりがちであり、事務・事業の主体が国民にとってわかりにくい場合もあるのではないか、規制と複合した民業圧迫や官需独占等が生じることにより自由な経済社会活動を阻害しているのではないかといった指摘も見られるところである。

(2)基本的考え方−「規制改革推進3か年計画」との整合
 @大綱においては、「国から公益法人が委託等、推薦等を受けて行っている検査・認定・資格付与等の事務・事業については、官民の役割分担及び規制改革の観点から厳しく見直した上で、今後とも国の関与が必要とされるものについては、国自らが行い又は独立行政法人に行わせることとし、独立行政法人への事務移管その他所要の措置を講ずる。これ以外のものについては、当該事務・事業に対する国の関与は廃止するなどの措置を講ずる。」こととされている。
 A大綱の趣旨を具体化するに当たっては、まず公益法人が行う行政代行的事務・事業のうち検査・認定・資格付与等(以下、「検査等」)に該当するものについて、国が現実にどのような形で関与しているのかを見極めることが必要である。
 Bその上で、基本的には「規制改革推進3か年計画」(平成13年3月30日閣議決定、以下、「3か年計画」)における基準認証等及び資格制度に係る基本方針において示された考え方に基づき、事務・事業及びこれに対する委託等、推薦等国の関与の必要性を見直し、必要性の乏しいものは廃止するとともに、それ以外のものについても極力国の関与を縮小する方向で検討を行うこととする。

(3)見直しの範囲
 @委託等、推薦等の対象となる検査等の事務・事業の範囲については、行政代行的事務・事業のうち検査・検定、試験、講習・研修、登録、交付・表示といった分野が考えられるが、この分野に属すると考えられる事務・事業であれば、名称や根拠の如何を問わずできるだけ広く捉えることとする。
 A「委託等」とは「事務内容等を法令等で定め、特定の法人を何らかの形で指定し、制度的にその事務を行わせているようなもの」、「推薦等」とは「法人が独自に行っている事業を奨励等するために、制度的に官庁が関与(認定、公認等)を行うこと」と定義しうるが、見直しに当たっては、これらの概念に属すると考えられる作用であれば、名称や根拠の如何を問わずできるだけ広く捉えることとする。
 Bまた、委託等と推薦等については、以下に示すように今後の取扱の方向性が異なると考えられることから、両者を明確に区別することとする。

(4)委託等について−法人の「類型」から「能力主義」へ
 @国が公益法人に対して委託等を行っている「検査・認定」等に係る事務・事業については、3か年計画における「基準認証等関係」に示された方向性を踏まえ、まず制度そのものの必要性を精査し、必要性の乏しいものは廃止する。なお必要と判断されたものについては、事業者及び国の責任を明確化するとともに、企業活動等への影響を可能な限り小さくする観点から、違反発生時の影響(危険等)の大きさ、発生の蓋然性を踏まえた上で、事業者の自己確認・自主保安を基本とした制度への移行を図るなど国の関与を必要最小限とする方向で検討することとする。
 A国が公益法人に対して委託等を行っている「資格付与」に係る事務・事業については、3か年計画における「資格制度関係」に示された考え方を踏まえ、まず制度そのものの必要性を精査し、必要性の乏しいものは廃止する。なお必要と判断されたものについては、資格制度が本来追求すべき政策目的の効果的・効率的な達成を確保するとともに、受験者等の負担を合理的な範囲でかつ可能な限り軽減する方向で検討することとする。
 B現在委託等されている事務・事業を国又は独立行政法人により実施することについては、官民の役割分担、規制改革の観点を踏まえ、当該事務・事業が民間に委ねることに本来的になじまない性質のものかなどの課題を精査した上で検討することが必要である。
 C上記@Aによる検討の結果、なお国の関与を残し、国又は独立行政法人以外の者に事務・事業を委託等する必要が認められる場合であっても、当該事務・事業を適正に行う能力を有する者に法人の類型を問わず広く開放する方向で検討することとする。

(5)推薦等について−原則廃止の方向
 @推薦等については、当該事務・事業が適切なものであることを国民に奨励的に知らせる効果が期待できる反面、推薦等を受けていない同種類似の事務・事業と必要以上の差別化が行われている、推薦等の持つ意味が明確でないため法人独自の事務・事業が国の事務・事業であるかのごとく受け止められ国民に誤解を与えているなどの指摘も見られるところである。
 Aこのため、特定の事務・事業が適切なものであるか否かについては、当該事務・事業を行う公益法人の努力を前提に国民自らが判断することが基本であるとの考え方にたち、原則として国の関与を廃止する方向で検討することとする。
 Bただし、3か年計画に示された考え方も踏まえ、法律に基づく制度・仕組の一部として組み込まれているもの(例えば第三者認証機関の認定や資格付与の前提となる講習の認定等)については、当該制度・仕組全体の必要性を別途検証することとする。

2 財政負担の縮減・合理化

(1)問題の所在
 公益法人の中には、その性格に着目し、国から補助金等が交付されることがあり、その多くは政策目的の実現や行政事務の合理化に一定の役割を果たしていると考えられる。
 しかし、このような公益法人に対する補助金等の中には、当初の目的を達成しているにもかかわらず交付の見直しが十分行われていないもの、交付先の公益法人自らが使わずに第三者に流れているもの、専ら公益法人を存続させるために交付されているもの、役員報酬に支出されているものがあるのではないかといった指摘が見られるところである。

(2)基本的考え方
 @大綱においては、「国が公益法人に対して交付する補助金等で、当該法人が更に他の公益法人やその他の法人等の第三者に分配・交付するものについては、当該補助金等を整理・統合した上で、国自ら又は独立行政法人が分配・交付することとする」とされている。すなわち、補助金等の交付を受けた事業のほとんどを他の第三者に再補助、再委託等し、当該法人は実質的に事業を行っていない場合(以下、「第三者分配型」)について当該補助金等を見直すこととされている。
 Aまた、「国からの補助金等により公益法人が行う事務・事業であって、当該法人の総収入に対し、その補助金等が大部分を占める場合は、その必要性等について厳しく精査を行い、当該事務・事業を整理・統合した上で国自らが行い又は独立行政法人に行わせることとし、これを適用することが困難な公益法人については別途検討する」とされている。すなわち、法人収入の大部分を国からの補助金等に依存している場合(以下、「補助金依存型」)について当該補助金等を見直すこととされている。
 Bさらに、「官民の役割分担の徹底、役員報酬の適正化の観点から、公益法人に対する補助金等において役員報酬に係る助成は行わないこととする」とされている。
 C以上の大綱の趣旨を具体化するに当たっては、官民の役割分担、財政負担の縮減・合理化の観点から、国の事務・事業は極力増やさないこと及び補助金等の額は増やさないことを前提とし、検討を進めることとする。

(3)「第三者分配型」と考えられる場合について
 @まず公益法人に対する個々の補助金等について第三者への分配・交付の状況を検証し、金額の如何を問わず補助金等の交付目的たる事業を交付先の公益法人自ら実施していると認められない場合の具体的基準を設定し、これに該当する場合は当該補助金等の内容を厳しく精査することとする。
 Aその上で当該法人を存続させる以外に政策的必要性がないと認められる補助金等は廃止する方向で検討することとする。
 B今後も政策的必要性があると判断された補助金等については、国又は独立行政法人から最終交付先への直接交付、交付先の変更等当該法人を通さずに目的を達成する方策、「第三者分配型」状態の解消に向けた当該法人における事務・事業の実施体制の改善等に向けた具体策等について検討することとする。
 Cなお、@に該当する補助金等でやむを得ない特段の理由により現状のまま存続させる必要がある場合には、行政の説明責任の確保と透明性の観点から、その理由を公表する方向で検討することとする。

(4)「補助金依存型」の公益法人について
 @まず各公益法人の総収入に占める補助金等の割合等について検証し、次に公益法人が補助金等なしでは存続できないと認められる場合の具体的基準を設定し、これに該当する場合は当該補助金等の内容を厳しく精査することとする。
 Aその上で当該法人を存続させる以外に政策的必要性がないと認められる補助金等は廃止する方向で検討することとする。
 B今後も政策的必要性があると判断された補助金等については、補助金等に係る事務・事業の国自ら又は独立行政法人による実施、交付先の変更等当該法人に交付せずに目的を達成する方策、「補助金依存型」状態の解消に向けた当該法人に対する補助金等の縮減等に向けた具体策等について検討することとする。
 Cなお、@に該当する補助金等でやむを得ない特段の理由により現状のまま存続させる必要がある場合には、行政の説明責任の確保と透明性の観点から、その理由を公表する方向で検討することとする。

(5)役員報酬に対する助成
 大綱に則り、公益法人に対する補助金等において、役員報酬に係る助成は平成17年度末までのできる限り早い時期にすべて廃止する方向で検討することとする。

(6)その他の検討事項
 上記の措置の対象となる補助金等が公益法人に対する補助金等の総額に占める割合は一定程度にとどまるものと考えられることから、今後、公益法人に対する補助金等の全般的見直し、個別の補助金等制度における公益法人に対する交付のあり方、補助金等の交付に係る透明性の向上等の課題についても政府全体として検討することが必要ではないかと考える。

3 国との関係が密接な公益法人に対する新たなルールの検討

 上記見直し作業の結果として、なお国から委託等や推薦等を受けて検査等の事務・事業を行う公益法人、国からの補助金等を第三者に交付する公益法人、国からの補助金等が総収入の大部分を占めてでも存続させる必要があると考えられる公益法人が引き続き残ることも考えられる。
 これらについては、一般の公益法人と比べ国との関係がより密接と考えられるため、行政のより一層の透明性、効率性、厳格性を確保する観点から、主務官庁や当該法人に対する新たなルールの設定について、併せて検討することとする。


IV 公益法人制度の抜本的改革の必要性

 公益法人の大半を占める行政代行的事務・事業を行っていない公益法人にあっても、昨今不適切な運営に起因する不祥事が明るみに出ており、国民の公益法人全般に対する見方が厳しくなってきているところである。このため、去る1月30日の閣僚懇談会において、橋本行政改革担当大臣から国所管の公益法人に対する総点検を各府省に要請し、4月始めまでにその結果の報告を受けたところである。
 このような状況を踏まえると、大綱に示された改革の方針は現在の公益法人に対する国民の批判の全てに応えるものとは必ずしも言い切れないことから、国所管公益法人の総点検の結果等も踏まえた対応が必要である。
 その際には、公益法人制度の基になる民法の規定が必ずしも十分体系的に整備されていないと考えられること、いわゆるNPOや中間法人が制度化され又はされつつあること等をも考慮する必要がある。
 以上の状況に鑑み、今後行政改革推進事務局としては、関係府省と連携しながら、立法化を含めたより抜本的な公益法人制度改革に向けた基本的方向を示すべく検討を進めることとしたい。